臨床評価 2001; 29(1): 217より
本号の特集主題は安全性の問題であり,医薬品関係者である製薬企業は勿論その使用者である医師,薬剤師また患者にとってはできれば 避けてとおりたい話題であった.しかしあらゆるものに両面があるごとく有害反応の全くない医薬品は存在しない.要はその予測性と早期発見, 代替え治療の選択であろう.当然そこでは医薬品使用の真の目標は何かを常に問いながらの使用が求められる.現在求められる非臨床試験 はまさに動物における臨床試験とも言うべき内容のPK,PDを含む成績であり,大量,長期の使用も含め発生機序も知ることが出来るので, 市販後の稀な有害事象の早期発見に繋がるであろう.従って藤森論文は臨床家もその目的で精読して戴きたい論文である.非臨床成績が 何処まであれば人に投与できるか,市販前試験の安全性評価も当然の第一歩である.その際,外国人の成績をどこまで日本人に外挿できるか の問題が次第に重要となるが,技術的には用語の統一などによる効率化も大切である.
行政の安全性への取り組みが受け身より積極的なものに変わったことは,行政のこの分野の重鎮である土井氏,黒川氏の論文に象徴的に 示されており、極端な言い方をすれば従来の後始末より進んで予防対策重視の施策であり,これにより真に良い,国民が必要とする医薬品が 継続性を持って使用可能となることは間違いない.「市販直後調査」の開始と外国における経験の最大利用によるより早期の安全対策は, 市販前の経験の少なさを補う重要な進展である.本号で米国,EU,WHOの安全性対策が取り上げられているのはこの意味で意義がある. 医薬品は今や全世界の人類共通の財産と考えるべきである.
行政や医療従事者また企業を寝ずの番で監視し,どちらかと言えば医薬品使用の有害性を重視する立場の方々が今回の企画では同じ土俵に 上がって研究者としての取り組みを書いておられるので,その立場も良く理解し目標は同じという認識を医師や企業の方にも知って頂ける点も 画期的である.あらゆる有害事象の「のろし」は医薬品使用者自身の発見に掛っているので,事象としての報告システムの重要性は言うまでも なく,因果関係を明確にしようとする発生源での努力が望まれる.このためにも非臨床試験,薬物動態,相互作用について本号に記載されている 論文は必読である.
巻末の2論文と1資料は特集とは関係なく本書の読後の休みに一服する,ただし禁煙の上の読み物であるが,流行のEBMに一矢を放った論文は 覚悟して読んで戴きたい重い論文であり、また資料は医学雑誌編集者国際委員会メンバーの共同声明の翻訳であるが臨床試験成績の公表に 関するものであり本誌編集者も注目している。終わりに我々の目標は一つであることを強調し,広い立場の方々からの寄稿により本号が安全性に 関する教科書となったことを執筆者各位に感謝し,読者が机上に置いて繰り返し精読されるようお願いする.(清水直容)