臨床評価 2001; 28(3): 601より
国際間の情報交換が頻繁に行われる中でも、ヒトの安全性を確保するための臨床試験のあり方をめぐって意見の異なるところが散見される。
2000年10月、ヘルシンキ宣言の5回目の改訂がなされた。本誌では、1975年東京総会で最初の改訂が大幅になされたのを受け、 宮野晴雄、光石忠敬両氏の解説記事を掲載している(1976年第4巻1号)。本号の光石による論説はその2000年版といえよう。この 間も、倫理的問題をめぐる論説や座談会の記録や倫理ガイドラインなどを継続的に掲載してきた。最近では、イエール大学Robert J. Levine 教授、日本医師会坂上正道氏を招いての座談会で2000年改訂に向けての国際的な論争を追いかけた。同じ号に、坂上がアメリカ医師会 改訂案と世界医師会の対応、各国医師会からのコメントを紹介している(1998年第26巻3号)。今回の特集はこれらの議論の、その後の 展開を追ったものである。
ヘルシンキ宣言は、従来は医師に対する勧告の形で行われ、自律的な業務実施基準とも考えられた。90年代に入り各国で検討もしくは 施行されてきたGCPが1996年にICH-GCPとなり、ヘルシンキ宣言遵守が原則とされた。ICHではトピックごとにガイドラインが検討され、 対照薬選定ガイドラインとヘルシンキ宣言の不一致はとりわけ指摘される。各国の臨床試験のガイドラインはそれぞれ異なる社会的背景 のもとに作成されたことを考慮すれば、随所で不一致が起こることも予想される。GCPとの整合性についても、今後本誌で検討したい。
本号後半の国際保健の視野からみた特集は津谷喜一郎編集委員の企画によるものであるが、グローバリゼーションの時代において 多国籍試験の動向、そこから生じる倫理的問題も、より身近な事柄とする感性が求められる。
1993年のCIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences:国際医科学評議会)ガイドライン(光石訳。臨床評価1994年 第22巻2,3号)は、ヘルシンキ宣言改訂の動きなどにも伴い現在改訂案が公表され、コメントを7月18日までということで募集している (http://www.cioms.ch/draftguidelines_may_2001.htm)。
また、本誌の投稿規定ではランダム化比較試験についてはCONSORT声明の報告形式によることを原則としているが、今年この声明も 改訂され、複数の国際的医学雑誌にこれに関する論文が掲載された。国際的な規範の刷新とそれをめぐる議論の速度は情報技術の 革新とともに加速度的に増している。今昔の感を禁じえない。(大森 義仁)