現代的製薬企業であること―それには臨床試験の
情報公開プログラムを欠かすことができない
Being a modern pharmaceutical company−Involves making
information available on clinical trial programmes

Richard Sykes(Chairman, Glaxo Wellcome)

〔臨床評価(Clinical Evaluation ) 2000; 27(3): 509-10より〕


 現代的な製薬企業ということは,何を意味するのだろう.社会の目まぐるしい変化や科学・医学の進歩によって,今日の製薬企業は, ほんの10〜15年前には明らかではなかったようないくつかの重要な役割を担うようになった.現代的な製薬企業は,価値ある医薬品を提供するためには 医療経済という現実的側面を十分に考慮しなければならない一方,より良い医薬品を必要とする患者のニーズに応えねばならない.また,科学, とくに遺伝学や情報技術の進歩を活用し,研究者・医療提供者・政府とパートナーシップを組む必要がある.こうしたパートナーシップの成果の ひとつとして重要なことは,臨床試験をオープンにし,透明にすることの必要性への認識が深められることである.

 医療提供者にとって医療費は最大の課題であり,製薬業界も新薬が既存薬以上の真の価値をもたらさなければならないことを了解している. 適切な対照を置いた,適切な用量・用法を示す正しい臨床試験によって証明された,より良い医薬品を提供することは,エキサイティングなこと である一方,直面し解決しなければならないジレンマも伴う.社会が製薬業界に対して期待しているのは,責任ある行動と,可能なときはいつ でも情報を公開するという姿勢である.

 意思決定者が,臨床試験の情報にこれまで以上にアクセス可能になることを望んでいることは明らかなことである.製薬産業は,当局による 承認制度の一部として定められた,臨床試験の実施・分析・報告義務における厳格なプロセスを基盤として成立している.企業が製剤の 承認申請を行う際には,その製剤に関するすべての臨床試験資料が申請時に提出されるべきことが,法律によって定められている. 意思決定者や処方者にとって問題なのは,これらの情報のほとんどが公表されていないことである.われわれには,医学や医療の様々な 共同体にデータを提供する方法として,同僚審査(peer review)のある医学雑誌に試験論文を投稿するという,長い間に確立されたプロセスに 依拠してきたという伝統がある.同僚審査は重要であり今後も続けられるべきだが,タイムリーな情報提供や情報の追跡によって臨床試験 データ報告時のバイアスを回避するという点については,明らかに改善の余地がある.インターネットによって,情報公開の視座は大きく ひろがる.情報の検索や素早いアクセスが可能となり,世界中の情報を集めることができるようになる.

 グラクソ・ウエルカムは,これから実施される臨床試験のプログラムに関する情報を登録する方針をいち早く取り入れた.その目的は, 臨床データのシステマティック・レビューを支援し,パブリケーション・バイアスの影響を抑えることにある 1, 2).臨床試験プロトコールの登録 によって,その情報に医療従事者や社外の研究者がアクセスできるようにした.この方針は,全世界のグラクソ・ウエルカムで行われている すべての試験に適用される.将来は,終了したフェーズUおよびフェーズV試験のプロトコールは,当局による承認とほぼ同じ頃に登録され, それらは大規模なフェーズVbおよびフェーズW試験のプロトコールへと,少なくとも一年ごとに更新されることになるだろう.最初の試験 についての詳細は,パスワードで保護されてはいるが,グラクソ・ウエルカムで新しく設けた研究開発のためのインターネットのウェブサイト (http://www.science.glaxowellcome.com)で見ることができる.

 われわれは可能な限りすべての臨床試験を公表することにも取り組んでおり,また,その後の公表の際にも使うために,各試験に個別の 識別番号を割り振ることとした.これにより,システマティック・レビューを行う人は重複出版を同定することができ,従って,重複出版が メタアナリシスによる有効性の推定に及ぼすあらゆるインパクトを回避することができるであろう 3)

 しかしながら,製薬企業だけでパブリケーション・バイアスの問題を解決することはできない.研究を行っているすべての者が,同様な 取り組みをする必要がある.実際に,英国の医学研究協議会の最近の臨床試験実施ガイドラインでは,すべての試験結果を公表する 必要性を強調している 4).また,医学雑誌の編集者も重要な役割を担っており,電子出版の進歩により,出版に要する時間が短縮される とともに,スペースの問題で試験結果を掲載することができなくなるという可能性も低くなるだろう.

 臨床試験の公表の意義は他にもあるかもしれない.再編された英国国民医療サービス(NHS)研究開発プログラムは,英国においてNHS 自体にとって重要とされる分野に研究援助を行うことに全力を集中している.臨床試験を包括的に登録することによって,どのような研究が 行われているかについてのコミュニケーションが向上し,これによって重複出版が回避され,資源をより有効に活用することができる.

 グラクソ・ウエルカムは,先陣を切って情報公開を行っており,私は他の製薬企業もこの取り組みに参加することを期待している. われわれは,知識集約産業として情報の価値を十分に理解しており,われわれの製剤を処方する根拠が明白であるようなオープンな 風潮を作っていきたい.

参考文献
1) Easterbrook PJ, Berlin JA, Gopalan R, Matthews DR. Publication bias in clinical research. Lancet 1991; 337: 867-72.
2) Stern JM, Simes RJ. Publication bias: evidence of delayed publication in a cohort study of clinical research projects. BMJ 1997; 315: 640-5.
3) Tramer MR, Reynolds DJM, Moore RA, McQuay HJ. Impact of covert duplicate publication on meta-analysis: a case study. BMJ 1997; 315: 635-40.
4) Medical Research Council. Guidelines for good clinical practice in clinical trials . London: MRC, 1998.
(訳:グラクソ・ウエルカム株式会社 広報室)

*本記事は,Richard Sykes. Being a modern pharmaceutical company−involves making information available on clinical trial programmes. BMJ 1998; 317: 1172 (http://www.bmj.com/content/317/7167/1172) を,BMJ の許可のもと翻訳・掲載するものである.

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