編集後記


臨床評価 2000; 27(3): 651より

新GCPの施行がわが国の治験環境の改善に大きく寄与したことは間違いない。少なくとも医療現場では、治験を担当する医師たちの 意識は大きく変化してきており、被験者への情報開示という点では旧GCP時代に比べて格段の進歩を遂げた。さて、臨床評価の本号 では、津谷氏の企画で「臨床試験の情報開示」が特集として取り上げられている。正しい情報開示は、専門家のためだけでなく、非専門家 も含めた全ての人々や組織に対して必須である。

私自身は「治験論文の公表要件廃止」は、必ずしも情報開示に逆行する動きとは考えていない。従来、製薬企業がある時点で臨床開発を 中止した場合、一般にはそれまで行われていた臨床試験の結果は公表されていない。この点は問題であり、何らかの情報公開をすべき であるという点で、今後議論が進むことは大いに賛同する。また、臨床試験は本来、「新たな知見(etwas neues)を示す研究」でなければ ならない。試験そのものの質とその報告形式の改善なしには、従来型の治験論文公表を継続しても有用な情報を今後提供できるとは いえないのではないだろうか。

日本の基礎医学の研究者による英文の論文発表が珍しくない現代でも、日本人医学者による英文の臨床研究論文は少なく、臨床試験 論文に至っては皆無に近い現状はあまりにも異常である。臨床研究に興味を持つ医師はこれを機に、従来の常識を打ち破るような否定的 な結果を含めて、臨床試験(治験をもちろん含む)の成績を英文にし、世界に公表するスタンスを取るような方向性を模索すべきである。 治験は臨床の場におけるエビデンスを求める研究である。当然、臨床医が責任を持ち、積極的に研究を進める以外に質の向上は 望めない。英文で論文を著すことにより、日本で行われた臨床試験を世界で共有する情報とし、国際的な評価に晒されることを恐れない 姿勢を臨床医に期待したい。「臨床評価」誌では、投稿規定の改訂以来英文の論文も受け付けている。国内外の論文を掲載し、海外の 読者にも選ばれる医学雑誌を目指すべきだろう。

また、「否定的な結果」であった臨床試験の成績を公表することは、当誌創立時よりの精神でもある。これについては現在は、論文以外 の情報公開の手段が世界的に検討され広まりつつあるが、本特集はこうしたシステムの整備に寄与するものと考える。(川合眞一)

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