第52回世界保健総会   決議52.19 (WHA52.19)
議題13                1999年5月24日


 
改訂医薬品戦略



   第52回世界保健総会 (World Health Assembly:WHA)は,

   WHAの決議WHA39.27,WHA41.16,WHA43.20,WHA45.27,WHA47.13,WHA47.16,WHA47.17,WHA49.14を想起し,

   「改訂医薬品戦略」についてのWHO事務総長(Director-General)のレポートを考察して(Document EB 101/10, section Z and Corr.1.),

   WHOの,改訂医薬品戦略の実施を支援する活動,とくに加盟各国の医薬品政策の発展と実施を支援する活動,すなわち,「医薬品の プロモーションに関するWHO倫理基準」(WHO Ethical Criteria for Medicinal Drug Promotion)の有効性を監査し評価する戦略をたて,市場 情報を流し,医薬品贈与に関する種々のガイドラインをつくり,モデル医薬品情報を提供する,といった活動を認め,

   進展のみられた事柄を満足をもって認識し,医薬品分野で現在新たに生じている種々の課題へのWHOの包括的な対応を評価し,

   医薬品分野での資源の合理的使用とヘルスケアの改善に貢献する必須医薬品コンセプトと国家医薬品政策を推進するなかでWHOが 示した強いリーダーシップを高く評価し,

   加盟各国が,WHOの発行したエージェンシー間ガイドラインにもとづいて医薬品贈与に関するガイドラインを採用してきたことを満足 すべきこととして認識し,しかし,期限切れの医薬品や表示の誤ったもの,必須ではない医薬品など,不適切な医薬品贈与がなされてきた ことを憂慮し,さらに,ガイドラインの効果についての評価は修了していないことを憂慮し,

   (a) 世界の1/3の人々が必須医薬品へのアクセスを保証されていない,(b) 品質の悪い原材料と最終製品が国際市場に流通しつづけて いる現状に留意し,

   パブリック・ヘルスを視野に入れなければならない貿易上の問題があることを認識し,

   TRIPS協定(知的財産権の貿易関連の側面に関する協定:the Agreement on Trade Related Aspects of Intellectual Property Rights)が パブリック・ヘルスの保護を視野に入れていることを認識し,

   発展途上国や後発発展途上国における,現地の工業生産能力と医薬品へのアクセスや価格に対して,貿易協定を含む関連国際協定が 及ぼす影響について,多くの加盟国が懸念を示していることに留意し,

   処方者(prescriber),調剤者(dispenser),一般の人々が,医薬品を非合理的に使用し続けていること,先進国にも発展途上国にもみられる 非倫理的なプロモーション活動や,科学的に妥当で独立した医薬品情報へのアクセス権の欠如が,そうした医薬品の濫用に寄与していることに 関心を寄せながら,

 1. 加盟国に対し,以下のことを要請する.

(1) 国家医薬品政策を改善し実施しモニターし,必須医薬品への公平なアクセスが確保されるよう必要かつ具体的なあらゆる手段を 取るという公約(commitment)を再確認すること.

(2) 医薬品・保健政策においてはパブリック・ヘルスが最重要であることを確実にすること.

(3) 必須医薬品へのアクセスを保護するため,貿易協定など関連国際協定のもと,各国の取るべきオプションを探査し再検討すること.

(4) 国内で生産もしくは輸出入する医薬品,あるいは自国が中継地となって流通するすべての医薬品についての材料と製品の品質保証 についての適切な統一基準を確保する規制を,確立し強化すること.

(5) 製薬企業や保健に関するコミュニティが倫理コードを確立し,関連団体と協力して医薬品のプロモーションをモニターすることを 奨励する「医薬品のプロモーションに関するWHO倫理基準」(WHO Ethical Criteria for Medicinal Drug Promotion)にしたがって,法制化や 規制を実施し強化すること.

(6) WHOが発行したエージェンシー間ガイドラインと合致する,各国の医薬品贈与を管理するガイドラインを発展あるいは持続させ, そうしたガイドラインの遵守を促すようあらゆる関連団体との共同作業を行うこと.

(7) 独立した,最新の,医薬品比較情報を提供することで,医薬品の合理的使用を促進し,合理的な使用法と商業市場戦略の情報を, あらゆるレベルの医療従事者の教育へと統合すること.

(8) 医薬品の合理的使用についての消費者教育,学校のカリキュラムへの導入を推進し支援すること.

(9) WHOにより開発された指標やその他の適切な手法を用いて,進捗状況を定期的に評価すること.

(10) 改訂医薬品戦略のための資金と資材の支援を,とくにWHOへ外部予算(extra budget)の財源提供により,継続すること.

 2. 事務総長に対し,以下のことを要求する.

(1) 加盟国が,改訂医薬品戦略の目的を達成する政策やプログラムを開発し実施する努力,評価とモニタリングのための道具や ガイドラインや方法論の開発なども含む努力を,支援すること.

(2) 「医薬品のプロモーションに関するWHO倫理基準」を実施し,あらゆる関連団体とともにその有効性を継続的にレビューする, 包括的な戦略を採用すること.

(3) 「国際間で流通する医薬品の品質に関するWHO証明制度」 (WHO Certification Scheme on the Quality of Pharmaceutical Products Moving in International Commerce)に組み込まれているガイドラインを, 医薬品の出発原材料(starting materials)にまで適用するよう拡張すること.医薬品の規制管理,輸出入とその中継に関する条件についての 統一ガイドラインを開発し普及させること.医薬品と医薬品の出発原材料の国際取引に関与する事柄の実施基準を開発すること.

(4) 「WHO GMP」(WHO Good Manufacturing Practice)の遵守を確実にするため,出発原材料と最終製品の製造地点を国家視察するための モデル査察証明(model inspection certificate)を確立し発展させること,またその実施に際しては加盟国の要望に応じて協力すること.

(5) 必須医薬品を生産するための,品質の保証された出発原材料の市場価格に関する独立した情報の提供を,強化し拡大すること.

(6) 医薬品の安全性,にせの薬剤(counterfeit drugs or medicines)の実例,医薬品の選択と合理的な処方,などについての独立した情報を, インターネットなどの電子媒体を利用して継続的に開発・公開すること.

(7) 加盟国がその懸念と優先順位に対応した医薬品・保健政策と規制手段を効果的に評価し,さらに策定できるように,また加盟国が貿易協定 などのポジティブな影響は最大に,ネガティブな影響は小さくできるように,貿易協定を含む関連国際協定中の,医薬品とパブリック・ヘルスに 関連する事項のモニタリングと分析について,要求に応じて加盟国と,また国際機関と,協力すること.

(8) 医薬品分野における,最新で継続する挑戦課題,また改訂された「すべての人々に健康を」政策に示される原則を反映するように, 改訂医薬品戦略をレビューし更新すること.

(9) WHOの改訂医薬品戦略の実施と更新に際して,前進のみられた事柄と直面した問題とを,実施に向けての勧告とともに, 第53回世界保健総会へと報告すること.

第9回全体会議(Ninth plenary meeting),1999年5月24日
A52/VR/9

(訳Ver. 2.0:津谷喜一郎,栗原千絵子)