臨床評価 1981; 9(3): 841より
1981年は、医薬品の有効性・安全性をめぐっての議論がいろいろな面から採り上げられた1年だったといえよう。わが国では抗腫瘍薬 の有効性について多くの研究者の意見が提起された。一方、アメリカでは、各種抗腫瘍薬の治験のあり方についてワシントンポスト紙 が大きなキャンペーンを張り、被験患者側の有益性についてNational Cancer Institute長官との間に激しい応酬が交わされたし、また 医薬品の試験に際して囚人を用いる場合の被験者側の利益と、Informed Consentの確認が改めて強調された。洋の東西を問わず、 医薬品の有用性の客観的評価に耐えるデータの収集の重要性が、従来にも増して要望される時に新しい歳を迎えることになろう。
このような時期に本号でbenzamide誘導体の第T相試験の論文が掲載できたのは喜ばしい。わが国の第T相試験のあり方に関しては、 諸外国との事情が異なることから、充実した試験の実施がなかなか難しい面が多いようで、その意味からも、この論文は重要な役割を 果したものと考える。総説にもリチウム中毒に関する力作を得た。リチウムは蘇生した医薬品であり、その毒性を考慮した上で再び 精神神経科領域で採り上げられるに至った歴史がある特殊な医薬品である。尨大な数の文献が引用され、各領域の研究が進んでいる が、その薬効・毒性の発現機構は未だ解明されていない。医薬品の評価の難しさを示すものであろう。
今年はGLPの案も厚生省から示された。近い将来に、外国ですでに着々と進んでいるGCP(Good Clinical Practice)が採用されることに なるかも知れない。医薬品の臨床評価も現状をさらに充実して行く方向に進むべきものと考える。(Y. O. 生)