編集後記


臨床評価 1981; 9(2): 523より

科学の進歩は疑うことから始められる。一見何気ないこと、経験と習慣からありふれたこととして放置してあったことの中に新発見が 生れることもある。

本号掲載のステロイド外用剤の臨床試験を一読して、おや?と思う結果が目にとまった。皮膚科はDouble blind studyが定着した領域の 一つとされ、とくに同一個体で左右比較が可能であるというユニークな、しかも便利な比較評価が実施されている。薬剤間の比較評価が 計画通りビューティフルな結果として出されていた。が、たった一つ、薬剤の割付けに偏りがないのに、不思議なことに、左右の成績を 比較してみると左側の方が右側より優れるという結果が出ている。このような左右差はこれまでの試験ではみられなかった現象で、要因は 不明とされている。外胚葉性由来の皮膚にみられた薬効の左右差が、臨床的に無意味なものか、将来意味づけられるものか、左利きの 患者ではどうだろうか。ベテランの研究者の報告をめぐって、非専門家はまた妄想を逞しくするものである。

うつ病の患者数は激増しつつあるという。早期の的確な診断と適切な抗うつ薬療法が患者を苦痛のどん底から救うといわれる。けれど 一方では難治、あるいは治療抵抗性の症例が増えているのも事実である。治療効果の予測が可能か、難治例への対策は、多数の精神科医 が悩むところである。

栗原論文はわが国で実施された抗うつ薬の臨床評価試験を総括して、多数例について、治療への予測性を問うものである。臨床家としての 経験と鋭い臨床家の”勘”や、生物学的仮説に基づく予測とともに、患者背景や初診時の病像その他から治療予後を予測する可能性について 追求する試みが、各科の疾患の治療上の一里塚となってゆくことも考えたい。

終りに本号も9篇の論文を収載し、部厚なものとなってしまった。図表も豊富に載せられる”馬鹿”が頭に付くほど真面目な編集方針をお笑い になるかも知れないが、臨床試験を計画する際、よい参考になるとのお世辞をも真に受けるほど、馬鹿正直だとわれながら思う昨日、今日で ある。(H. I. 生)

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