臨床評価 1981; 9(1): 237より
本号には、第T相試験1篇、第V相試験6篇、副作用報告1篇のほか、論壇として光石氏らの注目すべき論文が掲載されている。
「新薬の臨床試験における人権擁護について」、著者らは、日弁連アンケート調査成績から、かなり具体的な解答、あるいは問題点を 提示している。
「臨床試験は、それが安全でないとき、個人の健康・生命に対する人権が侵害の危険にさらされるし、いつ、どのようにして、どんな 臨床試験に供されるのか説明されないときや、説明されても断れない情況に置かれるとき、個人の意思・自由に対する人権(自己決定権 )がおかされる。この、二つの角度から人権侵害を抑制する一つの方法として第三者審査システムがある・・・・・・」。このリポートは、日本に おける第三者審査システムの実情を調査するために、システムが設置されるべき病院にアンケートを行い、また、臨床試験をする側の 医師とされる側の患者ないしその保護者になりうる市民に、どの程度このシステムを受け入れる素地があるかどうかについても検討した ものである。アンケートの回収率は必ずしも良好とはいえないが、病院向けアンケートの結果では、第三者審査システムに反対ないし無関心 のものは、大学病院62%、一般病院85%、精神病院94%であった。医師向けアンケートの結果では、約85%が第三者審査システムに反対 ないし無関心を示している。
主婦向けのアンケートの結果では、(1)新薬を医師が患者に黙って使ってよいとするものはゼロである。(2)いろいろ説明してもらい納得 すれば使ってもよいと答えたものは36%、(3)他の医師や法律家と相談のうえで決めたいと回答したものは22%で、約6割は、条件付き ながら被験者になってもよい、と考えている。しかし、新薬を使ってもらいたくないと答えたもの39%と(2)を加えると、医師の説明のみでは 新薬の使用不可というのが61%にも達することは注目される。
すなわち、新薬の臨床試験をする側では、8割が第三者審査システムに対して反対ないし無関心であるのに対し、試験をされる側の主婦、 患者側には、第三者審査システム的なものを受け入れる素地は十分にあることを、著者らは指摘している。このアンケート調査について、 主婦群では関心の高い人々が回答したと思われると、著者らは述べている。したがって、ここに出てきた数字が必ずしも一般の意見の代表 であるとはいえないが、上記のギャップをどう解釈し、どのようにして埋めてゆくべきが、治験に関与するものにとっては、重大な問題であろう。 (亀山正邦)