編集後記


臨床評価 1980; 8(3): 851より

今年は、日本の薬業界にとって、といっては範囲が狭すぎるであろう。薬事行政にとってといっても意を尽さない、とにかく、一つの 節目であったように思われる。薬事法が改正され、薬害救済基金が設立された。今まで、行政指導で、現実の必要にせまられて行われて 来ていたことが整理され、法的裏付けを得たことになる。

戦後、いくつかの薬害事件があった。また、薬効評価や臨床での薬のあり方をめぐって社会をまき込んで議論が斗わされた。戦前に比べて 格段に薬効あらたかな薬が次々と発見され、広く臨床で用いられるようになった。薬物療法の進歩は手術法の進歩を促し、社会での疾病 構造を変え、平均寿命を延長させ、世界人口の爆発を来した。薬効を臨床で客観的に検定するための工夫も進歩した。二重盲検比較試験 はほんの10年余り前まではわが国ではほとんど不可能といわれた。今日では薬効検定の標準的な手法である。プラセボを使用することにも 段々と抵抗が少なくなって来た。このような発展を踏まえて、今後の法改正が行われたと考えられよう。

しかし、二重盲検法とて、一つの約束事である。約束というのは破ることもできるのに破らないところに価値がある。いくつかの治験に立会って 見ると、十分に練られた臨床比較試験は、客観的で感度もよいという感じがする。一方、二重盲検法は、オープン試験からの十分な予備知識 の基礎に立って計画されないと、存在する薬効を見逃す心配もある。

丸山ワクチンの効果をめぐって、薬事審議会の審査過程を公開せよという声がマスコミに載り、厚生大臣も検討中と伝えられている。薬効評価 や、新薬の承認にまつわるいろいろの難しい問題を一般にも知って貰って、治験に今より以上に協力して貰うには、それも一つの方法かもしれ ない。しかし、一方では、薬効に関して学問だけで片付かないいろいろのことがあることをも丸山ワクチンの事例が示していて、これは日本だけ のことではない。(中島 章)

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