編集後記


臨床評価 1979; 7(1): 191より

本号には7編の二重盲検試験成績のほかに、大森氏の「薬物と精巣毒性」、佐藤氏らの「向精神薬等乱用者の実態調査」が掲載されている。 いずれも力作である。血液−精巣関門の役割、ことにその合目的性については今後も深く追求される必要があろう。”突然変異発現性を有する 薬物や、とくに殺菌・殺虫剤・抗原虫薬、去痰薬、天然アルカロイド類、カドミウムをはじめとする金属類、家庭環境を汚染する可能性のある 農薬などにも、精巣障害を考慮すべきものがある”との指摘は重要である。精巣管内外の化学物質の交換において、重水やエタノールは 即時的に交換が成立するが、アルブミンやイヌリンはほとんど流通しない。すなわち、かなり特異的なバリアが存在していることがうかがわれる。 薬物が、次の時代の不幸につながらないためにも、この方面の詳細な検討が望まれる。

佐藤氏らの調査で、全国の精神病院に向精神薬物乱用のため新規に入院する年間の乱用者数は、1,152〜6,719人、全科に入院する患者は、 1〜7万人と推定されている。この数字の背後には、家庭破壊、犯罪、社会からの脱落など、複雑な現象がひそんでいる。その実態の一部を、 数字として示したこの報告の価値は大きい。

二重盲検試験のそれぞれの論文には触れないが、薬効検定という共同作業を通じて、いろいろの発見があったり、薬というものに対する認識 が深まることは確かである。多くの論文が、冷静に、科学的態度を崩さずに書かれていることは喜ばしい。いろいろの批判を受けながらも、 薬効検定の1つの方法として、二重盲検試験が、わが国の土壌に定着したことを示す成果と考えられる。(M. K.)

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