臨床評価 1978; 6(2): 363より
本号にも数篇の二重盲検試験の報告が寄せられているが、これらに眼を通す時、患者の同意はきちんと得られているのだろうかという不安が いつも頭を去らない。最近開票し、それも自分がコントローラーの一人となった臨床試験で、同意の件が結局は不確かなままに終った例も 経験している。
臨床治験が集積されるにつれて、方法論や技術に関する改良と工夫が重ねられ、問題点が少しずつ解消されて行くが、「同意」、「妊婦・小児・ 老人などの特殊な被験者」などの基本的な問題は依然として残り、相対的な比重はむしろ増して来ているようである。
「同意」の問題には、医師個人の意識、臨床医学界の土壌、それに最近の社会の告発的ムードも加わって、実に複雑で微妙な面がある。医師と 患者の間に信頼関係がなければ医療は成立しないが、その信頼を破らないためにも同意が必要というと、信頼があるのだから同意は要らないと 反論される。わが国の医師は、そのような信頼関係に対して自信過剰な面があるようである。同意が必要とは分かっても、説明し、説得する時間 の余裕がないともいわれている。とても理由にはならない反駁ではあるが、多くの病院での外来の混雑を知る者にとっては、全く同情の余地なし ともいえない。日本の医師は確かに忙がしすぎる。
なにぶん、明治以来の医療の風土が相手のことである。その意識のレベルを「蒙」とするのは語弊もあろうが、啓蒙には長い時間と相当の根気が 必要なことは間違いない。
今年は7月早々に梅雨が明け、連日、真夏日が続いている。病む人にとっては苦しい季節である。本号ができ上る頃には、暑さも峠になろう。(K. Y.)