編集後記


臨床評価 1978; 6(1): 131より

本号に、ベーターブロッカーのプロプラノロールとプラクトロールの降圧効果を二重盲検で比較検討した論文が載っている。プラクトロールは イギリスで開発され、同国ではすでに臨床で広く用いられている。同論文に報告されている臨床治験が進行中に、イギリスで本剤使用に関係 すると考えられる涙液分泌減少、さらにすすんで角膜潰瘍による失明という副作用が見出された。この情報がわが国にも伝えられ、治験は 中止された。幸い、本論分でも見られるように、治験の段階では、そのような副作用を含めて重大な事故はなかった。

涙液分泌減少は、唾液分泌減少を伴うシヨグレン症候群の主な症状である。中年の女性に多く見られ、膠原病の一種と考えられている。良い 治療法は未だみつかっていない。涙液減少が重篤になると角結膜乾燥を起こす他、角膜が感染を起こしやすくなる。涙液に多量に含まれる リゾチームが涙液とともに減少して、自然の感染防御機構がそこなわれるためであろうか。涙液分泌が正常であることは、また、コンタクトレンズ 装用にきわめて重要な要因がある。涙液分泌が正常より少ない人は、コンタクトレンズが掛けられない。

この副作用が記載されるまで、毒性試験で動物の涙液分泌を調べようなどとは誰も考えて見なかったであろう。ビーグル犬で、ヒトで行うのと 同様の涙液分泌を調べるシルマーテストで、ベーターブロッカーで涙液分泌の減少を見たといった人がある。また皮脂腺、汗腺の萎縮を見た 人もある。しかし、もし将来、毒性試験の段階で涙液分泌減少を証明したとして、これをどのように評価すべきであろうか。ヒト試験の時に、 とくにこの点に注意する、ということであろうか。

それにしてもベータブロッカーは、すでに十種類以上も合成され、試みられ、売られている。その内のいくつかは緑内障の治療に点眼液で 試みられている。臨床ではどのような基準でこの中の1つを選び出してある患者に処方するのであろうか。(中島 章)

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