セルフメディケーションを視野に入れた
新一般用医薬品の開発と評価
Overview on development and evaluation on switched and
direct OTC from a world wide stand point of self-medication

清水 直容(帝京大学医学部)

〔臨床評価(Clinical Evaluation ) 2000; 27(Suppl XIV): 1-19より〕


Abstract
  It is now a generally accepted fact that individuals need to assume more responsibility for their own health. Because of this, much attention has been paid worldwide to self-medication, particularly to switched OTC (SOTC) and direct OTC (DOTC) drugs. Recently, a report of the task force on the development and evaluation of SOTCs and DOTCs, supported by the MHW research fund on the development and evaluation of SOTCs and DOTCs, has been disclosed in Japan. The report, translated in English, is included in the materials of this issue of Clinical Evaluation
.   As used in the report, the definition of OTC is derived from the EU and USA official documents. Other related materials are also included and reviewed in this article.
  The main purpose of the study on the switch from“prescription”drugs to OTCs is to obtain evidence on the efficacy and safety of OTCs in the sampled individuals representing those who purchased these drugs at their own discretion.
  A new proposal presented in the report is called the“actual use trial”(AUT), which is similar to the American“actual use study”. The background of this report and the problems to be solved before performing AUTs in Japan are discussed.

Key words
SOTC, DOTC, development, evaluation, AUT



A) はじめに:セルフメデイケーションとは


 厚生科学研究「新一般用医薬品の開発と評価に関する調査研究」は平成10年・11年度に行われ,最終報告(資料1)が提出された.その中で新一般用医薬品に分類される医薬品は医療用が一般用に転換(スイッチ化)されたOTC(SOTC)および新成分が医療用の使用経験なしに直接(ダイレクト)にOTC(DOTC)となる両者を指す.繁用語である「大衆薬」は,「一般用医薬品」すなわち非処方薬(Non-prescription drug, NPD)と同義で医療用医薬品(処方薬,Prescription only Medicine, POM, Prescription Drug, PD)の定義を基本としており,OTC(over the counter drug)とも呼ばれ自己の健康に自己が最終責任を持つ理念に沿ってセルフメデイケーション(自己治療)の手段のために用いられる.このセルフメデイケーションの概念には次の具体的事項が含まれよう.すなわちその対象は自己限定的な疾患による軽い症状(英語ではAilmentsと呼ばれDiseaseと区別される)の軽減で,自己判断,自己責任が使用の前提であるので添付文書とラベルを注意深く読むことが重要であり従って理解できる内容である添付文書とラベルの重要性が高まる.

 英国でセルフメデイケーションされる症状として多いものは,頭痛,ふけ,みずむし,発疹,風邪,咽頭痛,片頭痛,むねやけ,胃酸過多症状,咳,いたみの順であり一方軽い疾患として医師を受診する症状はアレルギー関連が多くぜいぜい,喘息,歯痛,湿疹,アレルギー性発疹,インフルエンザ,いぼ,背部痛,枯草熱,片頭痛という.

 たとえ責任が患者にあるにしてもセルフメデイケーションおいて医師および薬剤師の果たすべき重要な役割は,使用される薬が理性的に使用されるように職業的知識に基づき患者に援助,忠言,情報を提供することである.そして製薬企業は添付文書などその医薬品の基本的情報の提供者である認識が必要である.セルフメデイケーションの自己使用期間は状況により異なるが現在では通常3〜7日を越えないと考えるのが妥当であろう.セルフメデイケーションが適切でなく本来は医師に相談すべき状況としては,症状が持続する,前より悪くなり,一旦改善してもより悪く再発する,痛みが強い,1つ以上の薬を試みたが良くならない,望ましくない効果がでた,症状が重大であると感じた時,精神的な問題例えば心配,不安,気分のふさぎ,疲れ,いらいら,興奮しやすいなどを自覚した時,そして妊娠や授乳時,乳幼児への使用などがあり患者にこれらのことを具体的によく知らせるべきである.


B) 新一般用医薬品の開発の基本的理念


 今日の保健医療環境において,OTCの役割と将来が改めて議論されたのは,SOTCのH2ブロッカー,DOTCのミノキシジールなどの例のごとくSOTCやDOTCの開発方法や評価方法が使用者を含む医療界で有効性・安全性について関心事となったからであろう.そこで新一般用医薬品の開発・市販の際には次ぎの7項目の明確化が必要である.

 (1) 保健医療上の役割と意義の明確化,開発の理念
 (2) 処方,用法・用量,効能・効果等の設定の考え方
 (3) 有効性・安全性確認のための臨床試験などの実施方法
 (4) 有効性・安全性の評価方法
 (5) 消費者,薬局・薬店への情報提供方法
 (6) 薬局・薬店での市販後調査の実施方法
 (7) 外国における状況と国際的ハーモナイゼーション

 将来は後述のWHOガイダンス案のごとく,医師の確定診断後,薬剤の効果と安全性が判断され,しかも長い経過で服薬を要する場合の処方薬の必要性について,患者の利便性,服薬遵守性および医療経済的利益の視点による検討も必要になり,自己治療,OTC化の議論はさらに広がっていくものと思われる.その際に必ず問題となるのは医学,薬学について専門的知識を有する白衣を着た人間(医師,薬剤師)の監視下にある処方薬の使用が,そうでない自己投薬の場合に較べて効果と安全性で有意に優れるか否か,また便宜性と危険性のバランスを社会として何処まで許容するかということであろう.その判断に当たっては,医師,薬剤師の医療用医薬品の使用方法と販売実態の成績が問われ,また受け手である消費者(以下OTCにおいては患者でなく消費者という)の薬の性質の本質の認識,医療体制なども含めて,医薬品の持つ内因的性質と同時に社会的な外因的要因がOTC市販の有用性判断に重要となるであろう.この意味でもSOTC化に際しては実地使用(有効性および使用パターン評価),理解度評価,市販後調査の三試験が重要である.これには資料として掲載したEU(資料2),米国のFDAの新一般用医薬品審査の手順書(資料3:MAPP2編)および米国OTC薬の実用試験に関する指針草案(臨床評価1995年23巻Supple \p15),WHOの指針が参考になるのでそれを文中に含め解説をする.


C) 日本・EU・米国・WHOの新一般用医薬品評価の現状


 まず日本においては,次の承認上の区分1,2,3が新一般用医薬品とされているが,区分3は今回の報告書では対象外とされている.

 区分1:新有効成分含有医薬品(いわゆるダイレクトOTC)

 区分2:新一般用成分含有医薬品:区分1以外の有効成分であって,既承認の一般用医薬品には含有されていない成分(注:医療用としては既承認)を合有する医薬品(いわゆるスイッチOTC)

 区分3:新配合成分含有または組合せなどの異なる医薬品.当該薬効群承認基準(注:米国のmonographに相当)には合有されていない成分を配合するもの,または有効成分の組合せ,効能効果,用法用量の異なる医薬品

 なお,区分4は新一般用医薬品で市販後調査の終了したもので
 @新成分と異種の薬理作用を有する有効成分のみが異なる場合
 A@の場合であって,異種の薬理作用を有する成分が作用緩和な場合が含まれ,区分5は特殊剤型医薬品.承認基準のある医薬品で,その剤型(特殊なものに限る)のみ異なる医薬品.区分6は承認基準適合医薬品または上記(1)−(5)に該当しない医薬品とされている.

 EUの新一般用医薬品の概念:EUの新ガイドラインではまず「処方薬」の基準が先に明確にされている.いろいろな状況のもとで間違って使用されることが多く,その結果,人体の健康にとって危険である可能性がある場合,その医薬品は,処方せん薬となる.とくに配合剤に関しては医薬品が,作用および/または副作用について追加調査が必要である物質を含む場合は処方せん薬となる.また最近承認されたばかりの薬や使用制限が行われた医薬品,さらに新規の含量,用量,投与経路,適応症,新規の年齢層または新規の配合も原則的には処方薬となる.しかしこの中で非処方せん薬(OTC薬)の2種の別個の医薬品の有効成分を含む医薬品は,自動的にはOTC医薬品と分類されることはないが,「固定組合せ製品…に関するガイドライン」に従い評価されるとの記載がある.

 非経口投与(注射)のために医師により処方される場合は通常処方せん薬となる.その理由は非経口投与製剤は付随する危険性および投与経路の複雑さのためとされている.OTCとなり得る医薬品はこの処方薬の定義・基準に抵触しないという意味で高いハードルを超えたものとなるが,1回の最大用量,1日の最大用量,治療期間,含量,剤形,パッケージのタイプおよび/または他の使用状況に照らしてOTCでの供給が適切であるとされる場合も少なくないと考えられる.その際重要なのは安全性のため用量を減らしても有効性に影響がないことを確認する必要がある.

 米国(資料:1997年1月15日公布のMAPP)の定義は次のごとくである,

 1. 処方薬(Rx Drug Product):適切な医療提供実施免許(原文はappropriately licenced health care practitioner)の処方のみによって入手できる市販承認を受けた製剤.

 2. OTC製剤(OTC Drug Product):医療専門職(health care professional)の介在(処方)なしに,消費者が使用できる薬として市販されている製剤.それゆえ「over the counter」,OTC,カウンター越しの)製剤と呼ばれる.

 1938年以降,米国で市販中のOTC製剤は以下の主として2つの規制上の経路を通過し承認されたものというのでこれが試験と評価の参考になる.

 第一はOTC指針(最終案の段階)(英語でmonographと表現されているが日本のOTC薬効ごとの承認基準に相当)に従って市販されたもの.

 第二は新薬承認申請(NDA,New Drug Application),もしくは簡略化新薬承認申請(ANDA, abbriviated NDA)を通じての承認により市販されたもの.

 スイッチOTC製剤(Rx to OTC Switch)の定義として,以前には処方薬であったもので,かつ,適応症,力価,用量,使用期間,剤型,対象患者,投与経路が処方薬と同一のものとされている(注:米国のこの記載ではSOTC薬剤の定義がかなり限定されたものであることに注意).

 OTC薬として初めて市販される製剤(Initial Marketing of a Drug Product OTC):この範疇に含まれる製剤は,以下の2つのタイプのうちの1つである.

 (1) 今までに一度も処方薬として市販されたことがないOTC薬(注:すなわちダイレクトOTCになる).
 (2) 以前に処方用として承認を受けた薬であったもので,力価,用量,投与経路,使用期間,対象患者,適応症,剤型のいずれかが異なるOTC製剤,(注:米国ではこれらは新薬扱いでSOTCの中に含まれていない点が注目すべきである.)

 米国におけるその他の定義で参考になるものを記載しておく.

 臨床試験(Clinical Investigation):ある薬物が1名以上の被験者に投与されるあらゆる実験を言う.

 OTC薬実薬投与試験(OTC Drug Actual Use Study(注:使用パターンの試験が主体で有効性については広範囲にわたる集団における有効性の評価と記載されている.そのためEfficacy Studyを別個とする解釈もできる):OTC様の使用状況下で,薬物が被験者に投与される.通常は対照を置いた比較臨床試験である.

 OTCラベル理解度調査(OTC Label Comprehension Study):OTC製剤のラベル案を評価する調査でこの調査では,患者には製剤は投与されない.

 米国の考え方では限定された場合ではあるがSOTCおよび新薬扱いのOTCの場合,有効性と安全性を検証するには科学的,倫理的で信頼性のある実地試験が必要となる.とくにそのOTC Drug Actual Use Studyで評価すべき適切な項目はOTC薬を使用する集団向けの表示の妥当性,表示外の用法,推奨されていない服用量,服薬遵守あるいは服用期間,過量摂取(とくに小児および未成年),濫用の可能性である.安全性面でこれまで不足している情報は,OTC薬を使用している環境における使用パターンでありこの解決のためラベル理解度テストおよびactual use studyが重要視されている.これらの試験を含め有効性と安全性について科学的な証拠を示す必要がある場合には医療用医薬品の開発と評価の場合と同じ厳密な用語と内容を用いる必要がある.

 すなわちかかる検証試験とはランダム化二重盲験比較試験による証明のための試験であり,治験とは医薬品の市販承認申請を目的として行われる臨床試験のみを指している.本報告書で場合により必要とされる「新一般用医薬品の承認申請を行うための検証治験である使用実態治験:(Actual Use Trial,以下AUTと略す)」もその内容の正確な理解を要する.また用法・用量,含有成分の変更などがある場合は米国の考えでは治験薬となり医療用新薬と同じく治験薬申請扱いで治験届けが必要となる.米国のActual-Use Studiesの指針は1994年の草案であるが起草者のDr.Bowenの私信によれば1999年の時点で草案のままであるが,実際にH2ブロッカーのSOTCの場合この指針に沿った試験が検証的なレベルで行われている.用語上この試験がいかに呼ばれたかは不明であるが,有効性を示すefficacy studyも患者の薬の使用パターン評価のためのuse studyも1つの試験の中で行われたようである.試験のデザインは同じでも評価の目標を何処に置くかの相違により用語が異なると言える.今後用語の内容には注意が必要であろう.私的な情報であるが米国におけるH2ブロッカーのSOTCの場合に有効性を示した治療試験が2試験ありこれは多施設の医療機関で医師により行われ完全なRCDBT(ランダム化二重盲検比較試験)でIRB承認のICが得られ胃カメラ検査を受けた約400〜500人が参加している.

 初めの1週は日記の記載などの訓練を兼ねた制酸剤使用期間で,その後の4週がプラセボを入れた完全な二重盲検比較試験である.症状がある時のみセルフメデイケーションにより試験薬を服薬し効果は服用後1時間で胸やけが消失するか否かで判定されているが4段階判定,レスキュー用剤服用の記録もされている.プラセボによる完全治癒は41%,53%でありこれはその製品の添付文書に図示されているが実薬はこれより有意に優れる.このほかに複数の予防試験が各々100人くらいで行われテスト食で症状が発現するのを確認後に開始されている.患者の選択には過去2月間の症状が食事との関連して発現することを同定でき,週3回症状のある人で医療機関での治験として身体検査とLabテストも行われたという.評価には患者の自覚の強さや効果のスコアー化の5段階判定が用いられている.

 他のOTCの場合,17ショッピングモールで声をかけ参加よびかけ,医師であるInvestigatorが面接し,試験薬を1月分渡したopen試験がuse-studyとされている.これらの例は日本で今後Actual-Use Studiesや検証試験を行う場合に参考になろう.


D) 日本における新しい動向


 新一般用医薬品は,これまで日本において約50成分が承認され,一般用医薬品として国民の医療に十分貢献してきたが,より効果の強い薬剤の承認申請が行われるようになり,この機会に,消費者の自己責任,情報提供の在り方,医師および薬剤師との連携に関し,本報告書において臨床試験並びに市販後調査の実施と評価の方法などが提案された意義は深い.新規成分と含量の変更,用法・用量の変更,配合剤などではとくに臨床試験方法について必要に応じ,薬局店頭における使用実態治験(Actual-Use Trial,以後AUTと略記.注:日本では米国のSTUDYではなくTRIALとなっている点に注意)の導入が提案されている.AUTについては医療用とは異なった病態での使用も多いと考えられ,その病態に適した臨床試験方法や評価方法が必要の場合がある考えられる.薬局における臨床治験は本邦では経験がないため施設内治験審査委員会設置を始めいかに新医療用医薬品に準じGCP適合試験を行うかの大きな問題解決が必要である.GCP・GPMSP適合の試験と調査により有効性を明確にし,また消費者への情報提供の在り方を含めた安全性の確保のための方策を確立することは適正使用に繋がる重要な課題と考える.この実地治験は米国のActual Use Studyに相当するが,承認申請のための臨床試験に準じるヒト試験であるのでGCPの用語に従い治験とされ,新医療用医薬品治験と区別するためAUTと命名されている.米国ではIND(Investigational New Drug)申請扱いである.当該薬剤の使用対象集団における薬剤の実際の使用を評価するにあたって,このAUTは最も重要なものであると考える.安全性および有効性を実証する目的で,当該製品の承認に先立ち,AUTを計画・実施することを原則とする.また候補医薬品について「申請された場合の承認審査の基本的考え方」の主旨に合致することが前提条件である.

 すなわち1)当該有効成分(いわゆるスイッチ成分)が医療用医薬品として,再審査または再評価が終了していること.2)スイッチされる成分の副作用の発生状況,申請された用法・用量,国外での一般用医薬品としての使用状況,再審査再評価の結果等を踏まえ,一般用医薬品として適切な医薬品であるという中央薬事審議会の見解が示されていることが前提である.

 米国の実地治験の基本的考え方は科学的,倫理的で信頼性のある試験であることであり以下の記述はその実施上の基本的な考え方である.医療用医薬品としての膨大な使用経験は最大に活用すべきで用法・用量の設定が医療用の成績によりすでに評価され決定されている時は医療用医薬品の治験の第3相試験に原則としたデザインになろう.そうでない時はAUT以外に用法・用量設定のための試験が必要である.その場合も比較対照でない試験,専門家による良質な臨床記録,市販後の経験に基づくレポートなどは参考資料としての価値の位置づけと考える.

 配合剤に対する基本的考え方も標準化しておく必要がある.シメチジンのOTC化に際し見られたごとく,医療用医薬品成分を減量し他の有効成分を加える配合処方,2つもしくはそれ以上の有効な成分が配合される場合には,いずれの有効成分も効果をもたらすこと,併用することによりそれぞれの成分の安全性と有効性を減少させないこと,使用対象となる人々の中で適切な警告と表示に従って使用された場合に副作用が発生する率が低く,広く使用されるようになった場合に濫用される可能性が低いなどの証明が求められる.治験に際しては治験参加者よりの同意(Informed Consent, IC)を前提とし次の10項目を考慮した治験計画を作成する.

 1) 目的の明確化
 2) 活性成分の安全性と有効性を証明できる設計,比較対照薬の選定根拠
 3) 成分の効果を評価するのに十分な長さの試験期間
 4) 適切な治療パターン(合併症,併用薬など)
 5) 適切な治療対象患者群
 6) 患者の無作為割付
 7) 盲検での実施
 8) エンドポイントの明確な記載
 9) 適切な症例数の設定根拠と統計解析
 10) 試験成分の標準化の保障

 これに加え,実施施設の選定基準(薬局や診療所など),IRBの設置とその機能,消費者の同意取得方法,必要な場合の検査項目などプロトコールなどに明示されるべきである.AUTでは1つないし複数の主たる試験目的を扱うことができるが主たる試験目的となり得る事項は以下のごとくである.

 (1) 当該薬剤のOTC消費者を反映する集団を代表する比較的大きい試験サンプルにおける使用時安全性の評価.
 (2) OTC薬を使用する集団ならびに申請された表示条件下での使用に関する安全性の問題(有害事象,濫用または誤用の可能性)の探索.
 (3) 使用普及に伴いOTC薬使用集団により広範囲にわたる影響を及ぼす可能性のある薬物一薬物,薬物一疾患,ならびに,薬物一食事相互作用の有無の確認.
 (4) 申請された表示の妥当性,読みやすさ,分かりやすさ,解釈しやすさ,有用性(製品が意図する用途),ならびに,用法および表示された警告(たとえば,分かりやすいか,妥当な効果が得られるかなど)の遵守の検討.
 (5) OTC薬使用の種々の集団を想定したパラメータ(他剤を併用している集団,あるいは背景因子が多様な集団など,より広範囲にわたるOTC薬使用集団,あるいは,対象となる健康上の要因を有する部分集団),あるいは,安全性および有効性(プラセボまたは実薬を対照とする)についての一般的な臨床比較試験を想定したパラメータについて,実用条件下で有効性を検討する.
 (6) AUTにおける薬物摂取パターン(服用量,服用期間,1日当りの総服用量など)の評価.
 (7) 消費者の自己治療パターンの評価(症状の重篤度,有害事象あるいは適応症を薬剤使用パターンと比較検討).
 (8) 特定の製品をOTC薬として上市する際に要求される(あるいは提唱される)可能性のある(消費者,薬剤師ら向けの)特定の教育プログラムの有効性の評価.

 AUT(AUT)の実施に際し考慮すべき項目:以下は米国のOTC Actual-use Studies,指針案(1994/7/22 Drafted by D. Bowen for OOTCDE)Points-to-consider for OTC Actual-use Studies,OTC薬の実用試験に関する指針草案.臨床評価1995年23巻Supple \p15)を引用しながら日本における今後の検討に際しての材料として記述,その後にそれに対する日本での実施上の問題点を列記する.

 (1) 被験者の選定

 大部分の目的についていえば,AUTに採用する被験者の選定は,消費者が自発的にOTC薬を購入する場所(調剤室のある薬局・ドラッグストアなど),あるいは,消費者が日用品の買い物をしている場所(ショッピング・センターなど)で行う必要があるが,特定の部分集団あるいはリスクを有する部分的な集団を採用する試験では,より特定された医療現場(すなわち,開業医院あるいはこのような集約的な(enriched)集団を最も効率よく選定できると思われる場所)で被験者の選定を行う場合がある.日本と米国の医療事情の相違も考慮すべきであろう.

 (2) 参加上の要件

 大部分の目的についていえば,利益を受け得るすべての被験者は,当該製品の申請表示に基づいて試験への参加ができるものとする.処方せん薬の有効性を検討する臨床試験とは異なり,OTC薬のAUTでは,一般に背景因子および臨床特性がむしろ多様で均質でない集団から採用するよう務めるべきであろう.適切なインフォームド・コンセントおよび施設内治験審査委員会(IRB)の承認を得るのは必須条件である.IRB構成や設置場所の検討が必要であるがその1つの候補は地区薬剤師会や地域内の病院などであろう.

 (3) 試験条件

 試験条件を人為的に設定することは,被験者の選定,試験の実施ならびに結果の解釈に偏りをもたらすことになる.したがって,AUTを実施するにあたっては,実際の状況と同等の試験条件を採用することがとくに必要である.試験計画は,通常,OTC薬を実際に使用する集団の抱える問題に関するデータを収集する目的に沿うものとする.

 (4) 目標とする適応症状

 疾患を対象とする医療用医薬品では例えば胃炎という診断名をもつ患者の選択ですむが,疾患でなく症状名で適応が選択されるOTCの場合に本来は試験対象とするすべての適応症状は,OTC薬を使用する集団に妥当なものとし,表示予定のすべての適応症状を検討対象とする必要がある.しかし,AUTに被験者を採用する際には,OTC薬の消費者集団における予想される使用が反映されるようにする必要がある.例えば,複数の適応症状が表示されていても,既知の,あるいは意図する代表的な用途が一種類の適応症状(たとえば,頭痛)を対象とする製品については,OTC薬市場で最も一般的であると思われる,当該製品の一種類の適応症を有する集団に対して高い代表性を有する被験者を,AUTにおいて多数採用する計画とする.同様に,当該製品が特定のOTC薬使用集団(たとえば,月経困難症)に最も一般的に使用されると思われる場合には,このような集団(すなわち,若い女性)に対して高い代表性を有する被験者を,AUTに多数採用する.

 (5) 試験実施期間

 OTC薬の使用期間は通常3〜7日とされるが試験実施期間は,OTC向けの申請表示ごとに異なると思われる.発現する可能性のある有害事象,当該製品のOTC使用,誤用あるいは濫用に関連する可能性,その他の問題を確認するために,AUTは,できればOTC製品に表示される推奨服用期間の数倍に相当する期間にわたって実施することが望ましい.同様に,試験対象とする適応症の発現頻度が低く,持続期間も限られたものである場合には,特定の患者集団(たとえば,低頻度の頭痛,月経困難症など)において,服用周期の数倍に相当する期間にわたって試験を実施することもあろう.

 (6) 試験デザイン

 いずれの試験も,適切かつ十分な比較対照試験でなければならない.群間比較試験が一般に望ましいとされている.しかし,頻発し,予想可能であり,症候の程度が類似する一部の症状(たとえば,特定の患者における月経困難症)は,患者自身が自己の対照となるクロスオーバー試験が有用であると思われる.特定の試験目的については,同時対照ではなく,妥当かつ信頼性のある既存対照を検討してもよい.被験者は表示された指示を全面的に信頼して自ら服用するのであるから,研究者の直接の観察・監督下にないという点が,AUTを実施する上で理想的である.このような試験では,医療従事者の介入が最小限であれば,測定値の評価における観察者間変動は減少すると思われる.

 (7) 盲検化,無作為割付および層別化

 試験目的が臨床における安全性または有効性に関するものである場合には,比較臨床試験(プラセボまたはおよび実薬を対照とする比較試験)に,二重盲検法を採用することが強く推奨されている.患者を除外しない方針をとるAUTでは,各条件への患者の割付け上の偏りを少なくすることが困難な場合が多いので,予測されぬ一様でない無作為割付を最小限にするために,被験者選定に先立って,ブロックランダム化などの割付および層別化を検討してもよいと思われる.

 (8) 対照群

 第III相試験のような,より広範囲にわたる集団では,プラセボ対照群および実薬対照群の双方から,試験薬剤の安全性および有効性に関する貴重な情報が得られる.最も妥当な対照群を一群のみ設定する場合には,当該試験の目的に応じて選択する.全般的危険性一受益性評価では,当該OTC用製品が,既承認の類似する処方せん薬あるいはOTC製品と比較して,劣らないことを実証しなければならない.その際の非劣性試験については新統計ガイドラインを参照することが薦められる.OTC対象症状では高いプラセボ効果を考慮するとプラセボ比較試験が結論は明確であろうがプラセボ効果についての教育,知識の普及が大切である.OTC薬がそのプラセボ効果に基づいて承認されることはあり得ない

 (9) 標本の大きさ

 すべての検証的臨床試験の場合と同様に,臨床的および統計的に有意な効果を妥当な精度で検出するに足る適切な大きさの標本を採用することが肝要である.AUTにおける患者選定の特殊性が低い場合には,比較的大きな標本が必要である.部分集団の解析を熟慮する場合,あるいは,これらの解析が複数のエンドポイントの比較する試験の場合には,一般に,部分集団を構成する十分な数の被験者を得るために,大きな標本が必要とされる.自己選択および自己治療の問題に関連する,許容できる第一種および第二種の過誤について,当該OTC製品を上市する前に当該製品に添付する表示に基づき,予め基準値設定が望ましい.

 (10) エンドポイント

 個々の患者のデータは,AUTに重要性を有するものである.かかる個別の結果は,効果の有無,合計スコアの反応,あるいは症状が緩和するまでの時間として表される.しかし,主観的な概括評価が許容できるものであれば,臨床上重要な結果(「頭痛が治った」,「完治」,「服薬による副作用はなかった」など)を事前に決定しておく必要があり,許容できる主たるエンドポイントとして,試験計画書に,その正当性を記載しておく必要がある.すべてのAUTにおいて,使用毎の適応症,症状の重篤度,反復使用,使用毎の服用量,使用頻度,服薬間隔,1日当りの総用量等の薬剤摂取パターンを患者が報告するようにする.このデータは,安全性または有効性に関する個々の仮説の検証を解釈する背景を確立する上で重要である.

 有効性エンドポイント
 有効性反応の評価が可能なエンドポイントは,適応症ごと,用量ごと,服薬日ごとならびに全服薬期間にわたり,複数存在する.自己限定性の疾患過程における成績を評価する必要がある場合には,AUTに特別な問題が生じる.短期間の介入が患者のライフスタイルおよび行動に著しく影響を及ぼす可能性のある急性疾患を対象とするAUTでは,特定の質的なエンドポイントを検討する必要がある.患者が服薬前に中断していた通常の活動に復帰できる(すなわち,仕事に行ける,学校に行ける,日常生活における諸活動が可能になる)という報告は,非常に望ましい臨床結果の代表例である.さらに,製品が意図する有益な効果が得られないということは,否定的(negative)な臨床結果として重要である.同様に,正常な機能に障害をもたらす(すなわち,自動車の運転能力に悪影響を及ぼす)可能性のある副作用の報告は,当該薬剤のOTC使用の顕著なリスクとして,代表的なものである.

 安全性エンドポイント
 実地治験で評価対象となる可能性のある安全性のエンドポイントはいくつかある.有害事象は,試験薬剤をどのように使用するか(すなわち,用量,適応症ごとに頻度に基づいて整理する),あるいは,対象疾患以外の健康上の問題あるいは併用薬剤(薬物一薬物あるいは薬物一食事間相互作用ならびに特定集団における使用上の問題を特定する可能性がある)に応じて体系化する必要がある.試験デザインは,誤用(推奨される用量または服薬期間を下回るあるいは上回る場合,表示外の適応症に対して製品を使用する場合など)の可能性が検討できるものを採用してもよい.特定の場合においては,部分集団(すなわち高血圧,心臓血管疾患,消化器疾患を有する患者)の評価が,個々のOTC薬候補薬剤の安全性に直接かかわる場合がある.小児における不慮の中毒または過量摂取の可能性については,保護者は適切な使用および保管状態に常に注意し,過量摂取または誤用発生時の処置を把握しておく必要がある.

 (11) 服薬遵守

 服薬遵守は,多くの臨床試験で懸念される事柄であり,問題をはらんだ事項である.しかし,実際の服薬期間中の介入およびモニタリングが最小限である場合には,試験においては,服薬遵守の程度の測定の方が重要性が高い.さらに,AUTでは,薬剤が必要な場合にのみ服用されることが多いので,症状および自己治療を記録する日誌を患者につけてもらい,試験終了時に未使用の「薬剤数」を計数して,その記録が正確なものであることを確認してもよい.

 (12) 評価手段

 AUTにおいては,試験パラメータの評価に単純な質問および評点スケールが使用される場合がある.また,選択された個々の評価ツールは,個々の試験デザインおよび試験目的に最も妥当なものでなければならない.種々の評点スケールは,重要な臨床における有効性または安全性の検索,被験者が認める有益な作用および有害な作用の双方を検索する薬剤効果に関連する概括反応の評価,あるいは,表示の妥当性および分かりやすさの評価を目的として設定することができる.段階評価,はい・いいえ評点,視覚的アナログスケールは,使用される可能性のある評価ツールの具体例である.一部の目的について言えば,試験参加時の自発的質問において,個々の被験者が事前に規定する可能性のある,日常的機能に関連する一種類のエンドポイントの評価を,喪失機能の回復に要される時間を測定して臨床結果を評価するような場合に採用することがある.特定の試験においては,製品に対する即時の反応を評価するために,患者に日誌をつけてもらう必要があるかもしれない.広範囲にわたるOTC薬使用集団において生じる可能性のある安全性上の問題を評価するには,他の評点スケールおよび評価法を体系化・提案し,その妥当性を確認する場合もある.具体的事例としては,薬剤使用パターンの評価を通じて行われると思われる評価,あるいは症状の重篤度または副作用と薬剤の服用量,服用頻度および服用期間とのマッチングによると思われる評価がある.

 日本におけるAUT実施上解決すべき問題
 今後これらの試験の実施の際には更に具体的に多くのことが解決されねばならない.これまで多くの方から解決すべき指摘がされた事項を列記し今後の解決に待ちたい.

 OTC医薬品の多くは急性症状の対症療法として開発されるが急性症状の緩和を求める患者は薬局やGCPの対応が難しい小規模の医療機関に多いのでOTC臨床試験では症例が集まらない恐れがある.

 そしてOTCの治験は医師にとって実績となりにくく,新薬治験と比べかなりmotivationが低いと思われる.

 また治験に参加する患者のmotivationが低い.医療用医薬品の治験と異なりどうしても必要な薬であると認識されることは難しいからである.

 患者が医療機関を受診するのは医療用薬剤を望んでであり,OTC用の薬剤を望んでいないことも考えておく必要がある.

 治療期間の短いOTCを臨床症状で評価するため数日毎に来院,検査をすることになると,被験者にとって負担である.

 OTCは軽治療の範囲であり短期間で完治する場合が多く,被験者にとって再来院することは面倒であり,脱落例となることが多い.

 消費者が被験者となるためGCPあるいは同意取得等の啓蒙活動を実施する必要がある.被験者に対する利益として謝礼など一定の条件を設定するべきであろう.医療機関,薬局などで治験に伴い発生する費用はすべて依頼者の費用とする.被験者に対しては通信費・交通費および治験参加費を支払う.

 治験担当薬剤師・治験責任医師を設定する.

 薬剤師会を中心として環境を整備し治験に対する意識の向上を計る.

 背景因子および臨床特性が多様で均質でない集団が対象となることを評価上で考慮する.

 薬局などで同意を取得するためにはある程度の時間が必要,さらに専任薬剤師の設置が必要である.実地治験参画可能施設の要件を定める必要がある(緊急対応時の施設の設定).

 IRB組織などの整備に困難があるという危惧もある.また,薬剤師会・医師会などを母体とする共同IRB形態では真にIRBとしての責任を果たせるかの疑問も寄せられている.IRBは薬剤師会を中心すべきであるが,責任の所在を明確にする.地区薬剤師会・医師会の強い協力のもと地域コントロールによるIRBを実現するのも一案である.

 薬剤師会はこれまで薬局薬剤師へGCPの教育をしていない.

 被験者のプライバシーの保護をデータ作成過程でどのように実行するかは定めなければならない.

 治験を実施担当することができる治験担当薬剤師を定義し,日本薬剤師会はこの要件を定め,こうした業務を遂行できる教育プログラムを定め,実行し,テストし,合格者を認定する.

 治験募集の案内・広告を薬局や医療機関およびある範囲内のメディアを通して出すことを可とする.

 実施施設(薬局,診療所など)の選定基準を定める.

 有効性を評価する目的のAUTは薬剤師会を中心とする.安全性の評価は薬局・薬店でオープン試験を実施し,併せて製品の評価を行う方法を検討する.

 多施設の医療機関の治験責任医師と薬局の治験責任薬剤師が互いに合意の上で,治験を共同で進めて行くことは可とする.

 被験者の医療機関の来院は原則初回と治験終了時の2回とする.その間の治験薬の補充は薬局へ来店して行うものとし,来店時治験担当薬剤師は被験者の症状を観察・評価する.

 治験ガイドブックを交付し,治験理解の促進を図る.

 治験に対しての質問は治験担当薬剤師,または治験責任医師に問い合わせる.

 内容・複数の適応症の場合,代表的な適応症を有する被験者を多く採用する.

 複数の効能を求める薬剤はその効能毎に試験設定が必要となる.

 試験期間は推奨服用期間と同等の期間とするが推奨服用期間の数倍の期間が必要である時もあろう.しかし一般に対症療法剤が多い分野で,症状が消失した後に服用させるのは倫理上・GCP上問題であるという意見もある.

 薬剤師が症状や副作用を把握できるか.発現を見落とす可能性はないか.他疾患の隠蔽問題に対応可能かの疑問もある.

 症状の改善を目的とするのか予防を目的とするのか明確にした試験でなければならない.

 誤用,濫用による問題の確認はPMS計画に含めるのが良いという意見もある.

 一般消費者(被験者)にプラセボを使用する比較試験を納得させるだけの社会的基盤がないという指摘もある.

 二重盲検比較試験を実施する場合,プラセボは必要とする意見も強い.この場合のサンプルサイズの決定には科学的根拠が必要であろう.

 エンドポイントの最終評価は治験責任医師が行うが,治験担当薬剤師は薬剤師としての評価を症例報告書に記載することができるようにする.

 有害事象などが認められれば,治験担当薬剤師の判断で被験者に治験責任医師の受診を求める.

 AUTでは薬剤が必要な場合にのみ服用されることが多いと考えられるがすべての場合に服薬状況を治験担当薬剤師が責任を持って,日誌,未使用治験薬を回収することで確認することが重要であろう.

 消費者のアンケートからだけで評価するしか方法がなく,信頼性に欠けるという意見もある.

 評価スケールの客観化は必要であろう.治験責任医師,治験担当薬剤師共同で評価する提案もある.

 いずれにしてもAUTで評価され得ると思われる適切なパラメータは,
 1) OTC薬を使用する集団向けの表示の妥当性(表示の読みやすさ,分かりやすさ,解釈しやすさおよび製品が意図する用途など),
 2) 表示外の用法(推奨されていない服用量あるいは服用期間,表示以外の適応症については,妥当でない集団における使用など),
 3) 過量摂取の可能性(とくに小児および未成年),
 4) 濫用の可能性(濫用に該当する可能性のある特性を製品が有する特定の場合)などがある.

 さらに服薬遵守に関する事項,OTC薬を使用する広範囲にわたる集団における有効性,医療仲介者の予期される介入がない状況下で,OTC薬を使用する集団が薬剤を使用する際の個々の安全性に関する事項(実用条件下で発現する可能性のある予期しない,あるいは,許容できない有害作用)などOTC製品の実地治験で得られる結果は,これらのOTC薬を使用する集団における安全性および有効性を高めるにあたって,直接利用できる重要な情報源である.

 以上はSOTC化に際し必要とされる臨床成績についてこれまで米国の行政の指針による考え方を基礎にしているが実際にこれによって行われた試験があることは既述の例のごとくである一方.EUでは「医薬品分類変更に関するガイドライン」が1999年に実施された.その緒言に法的枠組みと目的があり続いて,処方薬と非処方薬の分類の基準,承認に必要とされる成績の二部から構成されている.とくに重要と思われる提出の際に必要とされる成績は5項目で,1.expert report 2.safety 3.efficacy 4.product information 5.otherである.expert reportは必須で,申請書に記載された用量および適応症のOTC薬としての分類に関する分析結果を示した臨床専門家レポートであるという.現在の科学知識に基づき処方薬としての個々の基準に抵触しないことを明らかにする必要が求められている.自己の症状についての判断を間違った患者による使用の結果,および当該製品を用いたセルフメディケーションに起因する患者の症状の診断の誤りまたは遅延の結果がそのレポートには含まれねばならないとしている.

 EUでは通常,当該製品の有効性に関する根拠となる成績は,適応症または用量の変更申請がない限り,不要である.しかし適応症・含量などに変更がある場合は根拠となるデータを提出しなければならない.申請適応症の適切な治療期間についての説明はパッケージの大きさについての説明と共に提出する.2. Safetyでは1)基礎を含み毒性のまとめと,2)少なくとも原則5年の処方薬のの使用経験(日本の6年の規定相当)そして,3)medical supervision無しでの使用経験(他の国での経験など),患者数,背景詳細,使用目的と量,4)EU安全性ガイドラインによる安全性の記載や処方せんなしで使用した場合の集団における問題点の提示と議論,5)通常の処方薬との相互作用,6)誤用,長期使用,過剰についての見解,7)使用状態や症状を正しく評価せずに使用した場合起こり得る結果,8)不正確あるいは診断の遅れによる結果.Efficacyのevidenceは適応とposology(投薬量判定学)の変更がなければ通常は必要とされない.書類の他の部分,例えば適応,Posology,あるいはStrengthが変更されるならばそれを支持する成績,適応の至適使用期間は正当化され包装の大きさに関連する.

 このように有効性の証明も医療用からの変更がなければ医療用として市販後の5年以上の成績がありその解析でOTC薬としての条件に合致する成績があれば良いようである.


E) 世界的動向


 以下「 」の記載はWHO主催1999/4/15-16「Guideline for the regulatory assessment of medicinal products for use in self-medication」Geneva「セルフメデイケーションに用いられる医薬品の行政的評価のガイダンス」(注:これは草案で配付用でなく討論材料の段階という)よりの引用で今回の報告書に関連のある記載のみ「」で抜粋した.WHOの立場からであろうか,米国の考え方と少し異なり医療用医薬品としての使用経験を世界的規模で最大限利用するという立場が読み取れる.このガイダンス案は1-4章と付録として患者用添付文書に記載すべき主項目サンプルで構成されている.1.Introduction 2.General Principle(OTCの定義など,医師や患者の医薬品の使い方にもよるとされSOTCのための医療用での使用経験は日本では6年であると記載ある.またADR収集体制によるとしている.) 3.General Basis for Regulatory Assessment 4.Collection and regulatory assessment of evidence of medicinal products aimed for self-medication

 このガイダンスではAssessmentという用語が用いられClinical Evaluationと言う用語が用いられていないがその理由として「時に必要とされることがあっても,新しい臨床試験あるいは研究よりは,多くの場合に既存の成績のレビュウ資料で評価できる」からと述べている.この中にはDirect OTCも含まれている.「この変更申請は企業が主体であるが時には行政が要請したりOTCより処方薬への変更が安全性のため要請されることがある.」

 「OTCの評価基準は通常の医薬品開発過程で得られる成績と市販後調査成績から確立されるが,OTC化後はまったく異なる集団での使用であり有害事象のモニター方法も確立していない.使用前の臨床試験からの情報がOTC化に十分である例は少なく,世界の多くの市販成績が重要で状況の類似性の高い地域間ではこれらの成績がそのOTCについてより詳細な経験を示すことになる.しかし時には追加的な臨床試験を消費者の実際の使用目標集団で行う必要もあろう.同じ製品が,処方されるより非処方で入手した方が害が少ないと考える消費者もいる点は考慮に値する.自己投薬の対象としては,1)患者が自己認識できる疾患や,2)患者の症状,慢性疾患,再発疾患・症状に対し処方医薬品の間欠的或いは持続的使用がある」とまで踏み込んだ記述もあり今後議論の対象となろう.「家族内で使用する場合もあろう.これらの場合には通常処方医師によって行われるいくつかの注意を消費者自身が行わねばならず,薬剤師の責務がより重要となる.情報の入手法の進歩,患者の知識の増大も大切な因子と考えられる.有害反応はOTCに特有でなく処方薬でも同じである.このような理由でOTCの承認,評価はリスクの許容範囲,社会の受け入れの問題である」としている.


F) 世界セルフメディケーション工業協会総会における報告


 以下は第13回World Self-Medication Industry WSMl 1999.6.9〜11総会におけるRxからOTCへのスイツチに関するワークショップからの抜粋である.

 AESGP(欧州大衆薬協会):専務理事Dr.H.Cranzは医薬品の分類に関するEU指令92126による処方せん薬の基準要点を次のようにまとめている.

 1. 医師の指導がなされずに使用される場合,正しく使用されても,直接的あるいは間接的に危険を及ぽす可能性のある医薬品
 2. しばしば,かなり広い範囲で不適正に使用され,結果として直接的,間接的に健康被害をもたらす可能性のある医薬品
 3. その本質,副作用からみて追加研究が必要とされる医薬品
 4. 非経口的に適用され医師により処方される医薬品
 5. 習慣性あるいは耽溺性をもたらす,かなりのリスクのある医薬品非処方せん薬は,上記に分類されない医薬品としている.

 スイッチする際の商標としては処方せん薬および非処方せん薬に同じブランド名を使用することを主張している.

 情報提供と広告では@消費者の理解可能な表示およびリーフレットA自主規制のもとですべてのメデイアでの広告について述べている.

 ドイツの状況についてDr.Seidscheck(ドイツ大衆薬協会)がドイツではEUのガイドラインとほぼ同様の考え方で行われている.スイッチOTCの審査の基準

 @有効性:その医薬品は有効か,そしてセルフメディケーションに適しているか
 A安全性:審査の際特に考慮すべき事項は,その病気,副作用の症状,禁忌症に関する患者の知識が十分あるかどうかである.
 Bその医薬品の使用経験
 C製品の情報を伝えるリーフレットの内容が,消費者の言語で明瞭かつ理解可能なものかどうかが評価されるとし審査期間は最短9カ月で過去20年間で約60成分がスイッチされていると報告した.

 フランスの状況について.Lanrezac,Pouletty(フランス大衆薬協会)はこの2年間でスイッチされた成分名を発表している.

 1998年:Ketoconazole(外用),Cromoglycate Na(点眼),Nifuroxazide(経口),Niflumic acid(外用),Ambroxol(経口)

 1999年6月まで:Cetirizine(経口),Minoxidil(外用),Loperamide(経口一用量変更),Levonorgestrel(経口),Nicotine(パッチ,ガム)

 フランスでは定型化した手順はできていないが,スイッチの審査期問は短縮しているという.

 イギリスの状況についてS.Kelly(英国大衆薬協会)は次のように発表している.

 イギリスのガイドラインは当初製薬業界が作成したものをもとにして,医薬品庁が,1993年ガイドラインを制定した,提出書類が明瞭に示されたが,承認はケースバイケースでなされる.同時にタイムテーブルも定められ,1994年から承認成分が増加した.スイッチに当たってのキーポイントとして,

 安全性:@処方せん薬として5年間以上の使用経験があり,安全性に優れているかどうか,A消費者が自己の症状を正しく認識して使用できるかどうか

添付情報:@製品,疾病に関するパッケージの情報は読みやすいか(理解度の調査が必要),A広告および電話相談・インターネットなどによる情報提供,Bへルスアドバイザーとしての医師,薬剤師,看護婦らの情報提供に関する役割が評価されるという.

 主なスイッチの成分:NSAID(経口,外用,抗ヒスタミン剤,H2ブロッカー,抗真菌剤,抗ウイルス薬,ステロイド,ニコチン

 主なスイッチの効能:関節炎の痛み,睡眠障害,湿疹・はげ,膣カンジダ症,禁煙補助,過敏大腸症候群,疾病予防などであるという.

 米国の状況がDr.Soller(米因大衆薬協会専務理事)により報告されている.一般的非処方せん薬の評価に適用でき,エビデンスを重視しつつ,ケースバイケースで評価されている.ごく一部のスイッチ製品の申請に当たって,ラベル表示に対する理解度調査および/またはラベル表示した試験品による実用試験が行われている場合があるが,まだ制度化されてはいないという.

 販売名は,処方せん薬および非処方せん薬とも同じコアブランドを使用している場合が多い.スイッチ製品の広告は可能であるという.付録として日本,米国,英国,ドイツ,フランスにおけるスイッチOTC成分年代順一覧表(2000年5月現在)を付ける.


G) おわりに


 セルフメデイケーションを視野にいれた新一般用医薬品の開発と評価について世界の動向を考えてみた.日本の今回の新一般用医薬品の開発と評価に関する調査研究班報告の主旨は対象となる医薬品は限定されてもOTCとして新規の医薬品(SOTC,DOTC)の場合および承認基準以外の新しい配合剤については検証試験が必要であるというものである.その主たる理由はかかる医薬品が使用される母集団を代表し得る使用実態の正しい評価のみが使用後の有効性と安全性の評価に欠かせないからであろう.この点ではFDAの考えと一致するが,SOTCの場合には医療用で得られた世界的なかつ膨大な経験を最大に利用すべきというEU,WHOの方針も当然視野に入れられている.今後必要とされる時に行い得るように検証試験(AUT)の実施体制を準備しておくことが求められる.

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VOL.27, Suppl XIV Aug.2000「新一般用医薬品の世界的動向」目次へ