編集後記


臨床評価 1999; 26(3): 547より

最近、医薬品の承認申請に関連して大きな変化が急速に進んでいる。厚生省は2000年4月から中央薬事審議会の新医薬品調査会を 廃止し、その業務はすべて専門委員会を含む当局側のメンバーで審議されることになった。また、1994年以後に次々と発表されている 新医薬品承認審査概要(SBA)も充実してきているが、参考文献は主なるものに止めると決められている。

一方、ICHの進展とともに日・米・欧3極間の臨床試験データの相互利用を認めるとするハーモナイゼーションの合意は、臨床試験の 論文をすべて公表することが常識となって来ているわが国における慣例を軽視するおそれもあると考えられ、とくに従来から少なかった いわゆるネガティブデータの発表をさらに減少させる懸念も持たれるところである。この意味からも、本号に掲載された漢方製剤を用いた 部分てんかん症に対する後期第U相試験の原著は大きな意味を持つものと考える。

1989年以降3極の行政当局と製薬産業との間で精力的に進められたICHの多くの成果は、その臨床試験に関与するわが国の医師にも大きな 影響を与えている。本号の資料に、その一つである外国で実施された臨床データを日本人に外挿する可能性を評価するのに必要な、国内で 実施すべきブリッジング試験を含む指針を紹介することができ、当局の好意に感謝する。もう一つの資料は、臨床試験を担当する医師とスポンサー となる製薬産業との金銭的関係をカルシウム拮抗剤の安全性を検討した多数の文献を解析し新たな観点から検討した異色の内容を 盛りこんでいる。訳者の労を多とする。

座談会の記事は昨秋来日したYale大学のLevine教授を迎え、その専門とする臨床試験と倫理の問題を中心に、途上国での臨床試験、 コントロールの問題、臨床研究の倫理やインフォームド・コンセントなどについて活発な討論が行われた。多方面にわたり、内容も濃く啓発 されるところも多々ある。また座談会でも取り上げられたヘルシンキ宣言の改訂がアメリカ医師会から1997年に提案され、世界医師会総会 での対応とプロセスをこの改訂にかかわっておられる坂上日本医師会参与から解説していただいた。

報告3編は昨年ロンドンで開催されたランダム化臨床比較試験(RCT)50周年記念会議の紹介と、わが国からの報文2編である。とくに 清水名誉教授らの報文は、本委員会のRCTの理念、手法やその成績を241のプラセボ対照試験を含む798試験のRCTをまとめたもので、 委員会の歴史を紹介するものとして興味深いものである。

本号は、それぞれの分野で臨床家に資する内容を多く提出したものと考え、今後の更なる充実を期待するものである。(Y. O.)

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VOL.26, No.3, Feb.1999 目次へ
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