編集後記


臨床評価 1998; 26(2): 337より

本格的な高齢社会の到来とともに痴呆性高齢者の増大が大きな問題となっている。わが国における痴呆の罹患率は、75〜79 歳では4.1%、80〜84歳7.7%、85歳以上で19.3%にも及び、社会的問題のみならず医療の面においても、その対策、ことに優れた 痴呆薬の早期開発と迅速な臨床応用の必要性が渇望されている。

かかる時期に本号が、アルツハイマー型痴呆患者を対象としたアセチルコリンエステラーゼ阻害剤E2020錠の前・後期臨床第U相 試験の論文6編を一括掲載するとともに、総説「抗痴呆薬の臨床評価における問題点(本間 昭氏)」、FDAの「抗痴呆薬の臨床評価 のためのガイドライン」とCPMPの「アルツハイマー病治療用医薬品ガイダンスについての覚え書き」、ならびに「抗痴呆薬に関する 7つのコクランレビュー抄録」を一括して読者にお届けできることは大変意義のあることと考えられよう。

上記の臨床試験の論文に見られるごとく、一般的にわが国における新薬の開発段階における臨床試験には極めて長い歳月を要し、 開発の遅れが臨床的にも大きな問題となっており、その対応も急がれよう。また同時に新GCPにおいて規定されたごとく、今後の わが国の臨床試験はその倫理的妥当性についても、また科学的信頼性においても国際的水準に到達することが必要であることも 論を俟たない。これらの問題点について十分な認識が必要であろう。

現在わが国においても多くの抗痴呆薬の開発が進められており、また準備されていることを踏まえ、「抗痴呆薬の臨床評価に関する ガイドライン」が新しく準備されており、間もなく厚生省通達として発表されることが予想されている。これらの抗痴呆薬の臨床評価の あり方については、本誌の解説、ならびに本間 昭氏の他の論文(臨床精神薬理 1:1055-1061、1998)や青葉安理氏の近著(臨床薬理 29:771-781、1998)を参照されることをお勧めしたい。

今後、医薬品の開発がglobalな規模で実施されることは必至であり、それぞれの薬効群ごとの新医薬品の臨床評価ガイドラインも国際間 で協調化されることが必要であり、これにより臨床研究が多国間で共同して実施されることもさらに容易となろう。これらの方向性を 見極めるには、本号の諸論文が有益な示唆を与えるものと信じている。わが国においても科学的に信頼性の高い試験成績を生み出す ためには、臨床試験に対する意識の改革が必要であることを痛感する。(上田慶二)

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