編集後記


臨床評価 1998; 25(2, 3): 311より

薬剤の臨床試験の質の向上を目指して、当時の厚生省新薬調査会の有志が佐藤倚男を中心としてコントローラー委員会をつくって 25年が過ぎた。雑誌「臨床評価」も25巻を重ね、薬剤の治験に関する報告や種々の資料は、諸家の役に立って用いられてきたと思う。

最近になって、コクラン・センターというのがロンドンにできて、薬剤の臨床治験に関する情報を世界から集めてプールし、メタアナリシス を行い、一般にも提供している。コントローラー委員会と同じ思想である。過去に何度か国際シンポジウムが本委員会によって組織され、 国際臨床薬理学会総会がメンバーの一人、清水直容を会長として横浜で開催された、というようなことで委員会の活動が海外にも 知られていたから、コクラン・センターができる多少の契機になったかもしれない。コントローラー委員会が保存するデータも関係者の了解 を得て、何らかの共通データベースにできればと考えている。

厚生省のGCPができたりして、日本の臨床治験の質は大幅に向上した。と同時に日本では治験が非常にやり難くなった。ハーモニ ゼーションで海外のデータを用いて承認申請しようという傾向はますます顕著になるであろう。お薬の治験と無縁のような移植医療が、 提供者と被移植患者との善意の流れがつながらないで相変わらず大金を使って患者が外国へ行くのと、根は共通している。

この号には薬に関して極めて重要な問題に関する総説が資料とともに掲載されており、いずれも力作である。広津の薬剤データベース の構築は国際的な薬剤のデータベース構築の基礎となるものである。土屋の薬剤情報提供は、臨床上も、一般薬のあり方を考える上で も重要な問題を示し、清水の欧米における状況と読み合わせて戴きたい。日本医師会雑誌119巻2号、p.235の神保の「痛い薬」はこれと 関係して、患者が極めて異質な集団の集まりであることを示す。

患者だけでなく、医師も異質な集団である。ソリブジンは抗癌剤との相互作用でのみ死亡事故を起こすが、帯状ヘルペスには極めてよい 薬で、使えなくなったことを惜しむ声が強い。相互作用のことを知って医師のすべてが使っていたら、世のために今でも使われているであろう。 医師が良薬を殺した例とは言い過ぎであろうか。(中島 章)

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