編集後記


臨床評価 1996; 24(1): 147より

本号には医薬品添付文書の見直し等に関する厚生省研究班の報告が掲載されている。

医薬品添付文書というと響からして無味乾燥な感じを受ける。素人の口をはさめる場面でもなさそうだが、少なくとも紋切型文章の機械的な 羅列ではいけないと思う。このたび、重要性に鑑みた強調、限られたスペースの配分、配列、あるいはより大きな電子化データベースに依存 すべき事項との区分などが活発に議論されているのは幸いである。

例えば副作用報告にしても、それが臨床試験、W相、自発報告のいずれに依るのかできたら別々に記載すべきだし、単に出現率だけでなく、 発生メカニズムを構造・機序の類似した薬と対比しつつ記載するのが望ましい。副作用や相互作用は最新情報を遅滞なく反映させる機構とな っている必要があるが、それ以前にそれら情報をどう獲得するかが重要課題である。すなわちこのテーマは、添付文書の単なる形式論ではなく、 薬剤疫学研究の根幹に係わるものと思われる。

遅きに失した感もあるが、ようやくICHで総計解析ガイドラインが議論されることとなった。ただし、これは統計手法の技術的詳細を規制すると いうよりは、一般的な「礼儀作法」を議論するものになると思われる。

統計は数学とは異なる知的技術であり、一般に与えられた問題に対して一様に最適な手法など存在しない。実験者は目的あるいは環境に応じ、 可能ないくつかの手法から一つを選ぶことになる。そこに多少の運・不運はつきまとうが、厳密に同じ問題など二つと存在しない以上、このような flexibilityはどうしても必要だろう。また手法を下手に規制すると最先端の研究を阻害することにもなりかねない。

一方、統計的方法の誤用にはそのようなflexibilityは許されず「絶対禁忌」である。例えば、検証的な検定を目的としながら複数の検定を試み、 事後的に一つを選ぶというようなことは許されない。こちらは技術というよりむしろ観念あるいは哲学に近い。冒頭「礼儀作法」といったのはこの ことである。

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