編集後記


臨床評価 1995; 23(2): 485より

医薬品の臨床試験は、その実施時点での臨床医学の高い水準を満たし、科学的客観的評価に耐えるものでなければならない。本「臨床評価」 は各種臨床試験の計画・実施ならびに考察にあたっての偏りの排除と公平性の維持の必要性、さらに得られた成績が、ネガティブデータをふくめ 公表することの重要性を願って発刊されてから20数年を経過した。

臨床試験はヒトを対象とするものであるから、倫理的な配慮のもとに科学的に適正に実施されるべきであり、わが国ではこの目的にそうべく 平成2年10月からGCPが施行された。一方、すぐれた新医薬品の患者への早期適用実現のためには、世界各国政府間で異なる承認申請に あたっての技術的要求事項のHarmonizationが可能となれば、各国それぞれに基礎・臨床試験での繰り返しや追加要求もなくなり、新薬開発 と患者の福祉の促進とに結びつくものとして、ICHでもGCPガイドライン(案)がつくられた。この(案)をめぐって本年11月横浜で開催されるICH− 3でも討議が行われる予定である。このたび厚生省ならびに関係各位のご厚意で、本誌に紹介できたことは大きな喜びである。ご尽力いただいた 方々に感謝する。

内容はわが国のGCPよりも詳細多岐にわたるもので、ガイドラインで用いられる用語の定義に始まり、例えば治験責任医師、治験調整医師の ほか補助治験担当者、多施設協同治験、監査やモニタリング、その他臨床試験に携わる医師に参考となる新しい記述にあふれている。ぜひ、 将来の治験実施のためにもご一読をいただきたく、2種の付属文書のガイドラインと共に参考に供するものである。

近年わが国でも、再び臨床試験をめぐる諸問題での議論が盛んになりつつある傾向が窺える。臨床試験の原点に帰り倫理的・科学的な討議 がさらに活発になることを希うものである。

本号では高脂血症に対するfenofibrateの評価が、2論文でプラセボおよび対照薬を用いて実施された。有用性の考え方を示すものである。 他の1編は同薬の腎障害時における効果と併せて薬物の動態の関係を観察した論文で、治験薬または併用薬の疾患時の動態の変動と 効果と副作用の関連追求の必要性を示唆するものである。この他、腎透析患者の貧血に対するSNB−5001と片頭痛に対するLomerizineの 既存薬との比較試験論文も掲載することができた。他の1編は精神症状評価尺度の1つとして広く用いられているBPRSがそれを利用するにあたり、 原著、その改訂版、翻訳版あるいはそれらを利用する研究プロジェクト間で必ずしも同じ尺度が用いられていない現状に鑑み、過去の文献を 再検討し、新たな「日本語版」を作りその有用性を検討した貴重な論文である。

医薬品をめぐる評価のあり方の諸問題をめぐり国際的交流が進むのは歓迎するところであるが、臨床医学の歴史、医療事情や文化の異なる わが国では、必ずしもすべて欧米の考え方や評価に直ちに同調できない問題をかかえていると思う。各臨床家が絶えず過去を振り返り、現状を 直視し、自ら分析し、問題点をさぐり、十分な議論を交し、問題を1つずつ解決してゆくことが大切であると考える。

なお、今号より長年にわたって「臨床評価」の実際の企画・編集に携わってきたスタッフの氏名を奥付に記載することにした。(Y. O.)

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