編集後記


臨床評価 1992; 20(2): 413より

この夏、コントローラー委員会の創立20周年記念行事が第5回世界臨床薬理学会会議を機に、横浜市のパシフィコ・横浜におい て行われた。どちらの会も盛会裡に終り、当委員会の長年にわたる努力が内外の専門家に紹介されて高い評価を得たことは、 関係者一同にとって大きな喜びであった。

これらの会合を通じて痛感したのは、臨床試験に関する理論や技術は年々進歩しているということであるが、同時に、われわれ が日頃常用している方法論についても、新たな視点からの見直しや再確認を怠ってはならないということであった。くすりと同様、 臨床試験にも再評価、再点検の作業が必要ということである。

本号には臨床試験の原著5編に加えて、先頃厚生省から出された「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」が資料 として掲載されている。その序文や第V相試験の項に、臨床試験の最終目的は「・・・治験薬の・・・臨床における有用性を評価 することである」と明記されている。このように臨床試験は第三者によらずそれ自身で、被験薬の有用性に関してconclusiveな 評価を出さねばならないことになっている。この有用性の評価に関しては、担当医師が個々の被験者について評価するという わが国独自の方法に対して、従来からいろんな見解がある。最近では、審査の国際化への動きなどとも関連して取り上げられ ているようであるが、こうした新たな情勢に応じて、これまでの方法論ふまえて議論する必要がある。

臨床試験での有用性判定をめぐる問題の焦点のひとつは、その必要性と判定の妥当性であろう。くすりの有用性判断はいろ いろな立場やレベルで行われる。わが国では今年の3月、すでに長年にわたり世界各国で使用されている経口避妊用の低用量 ピルの認可が突然見送られた。これなどはきわめて高度でかつ低次元の政治的レベルで行われた有用性判断といえよう。 臨床試験での有用性判定は個々の被験者から直接得られた最もprimaryなものであり、その他の種々なレベルでのsecondary な判断とは本質的に異なるものである。一方、有用性は有効性と安全性という異質な評価を総合して判断されるが、担当医師 のこうした総合の能力やその妥当性も問題にされる。ここで注意すべきは、有効性も安全性も共に、異質な症状や検査項目 を統合して得られる総合判定だということである。有用性に関して医師の総合判断能力を疑問視することは、有効性や安全性 の評価についても信用できないことになり、臨床試験は成り立たない。

当委員会では常にこの種の検討を行っているが、さらに論議を深め、その一端を本誌に掲載するべく準備中と聞いている。 そうした論議が、臨床評価の方法論のさらなる進歩に寄与する方向に進められることを願って止まない。(K. Y.)

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