編集後記


臨床評価 1973; 1(2, 3): 252より

「彼を知り己を知れば百戦して危からず」は、孫子謀攻第3篇の名言であるが、彼我における情報量の決定的な差が、戦力における 決定的な差と直結することは、ミッドウェイ海戦の例をまつまでもない。

実は、最近ジャーナリズムを賑わせているウォーターゲート盗聴事件の本質も、この辺に秘んでおり、彼我の情報量の間に勾配を作る ために、情報の略取と撹乱が行なわれ、権力の獲得と維持が計られた点に、権力志向型のNew Nixonの面目が躍如としている。

しかし人はつねに人にとって狼であらねばならぬのだろうか?(Hommone hommini lupus ?)。自己の情報の秘匿と他者の情報の略取、 そういった勝者の論理のみによって、人類の淘汰と進化が行なわれるべきだと考えてよいのであろうか。

幸島の仔猿111号メス(通称「イモ」)が、はじめてイモを洗う行動を発見したとき、彼女はそれを特許庁に登録することもなく、また密教的 神秘的なヴェィルをまとわせて、群れのリーダーとなったわけでもなかった。この行動は仔猿を通じてひろく全島のサルに伝播し、群れ全 体の類カルチュアのレベルが高められたのであった。

情報の秘匿のうちに得られた権力構造は、あるいは張子の虎のように脆弱であり、情報の公開と共有による連帯は、人々の心の中に 強靭である。われわれは今後とも自らの情報を公開してゆく茨の道を歩んでゆこうと思う。

幸い、本号には公表制限特約に関する光石氏の論説、ならびに薬剤の無効データ2論文、副作用報告1論文の御寄稿をえたが、このことは 喜びにたえない。(栗原雅直)

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