臨床評価 1972; 1(1): 136より
昭和30年ごろカメラを買うつもりで、手当り次第に写真雑誌、カメラ雑誌を買って調べた。それらの雑誌の中で「ニューフェース診断室」という 記事にゆき当って、以後毎月よんでいた。この記事はカメラを分解し精しく調べるだけでなく、実際に使用した結果も忌憚なく批評してあり、 ずい分参考になった。ところが毎月よむたびにそのカメラに多くの欠陥があることが暴露されるため数年間は買う気がしなかった。一方、 別のカメラ雑誌で、有名な批評家が、「あの雑誌のような厳しい批評ばかりしていては日本のカメラ業界はつぶれてしまう」と書いているのを 読んで、なるほどそうかも知れないと思った。しかし、数百の他のチョウチン持ちの記事と数千の広告の中で、このだた一つの記事は光っていた。
それから間もなく日本のレンズが優秀だという評判が立ち、さらにレンズばかりでなく外国からの旅行者が日本のカメラを土産にするという様に 事態は一変した。昨年西独のツァイス・イコン社がカメラ部門から手を引き、今年6月にはライツ社が日本のカメラ会社と提携することになり、 日本のカメラは国際的な好評の下に独走をつづけているらしい。日本のカメラ業界はつぶれなかったことになる。醒めた眼の批評家たちが 協力した、たったひと筋のしかし継続する記事が日本のカメラ業界を究極的には国際的に飛躍させたかくれた原因だと私は思っている。
医療の世界はこう順調には行かないかも知れないが、われわれはまず薬の無効論文と副作用報告の発表の場を作り、これに対しては原稿料 を払う予定である。ただし第一号では、残念ながら間に合わなかった。(佐藤倚男)