編集後記


臨床評価 1991; 19(2): 311より

内藤氏の『臨床試験における国際化問題について』は、多くの重要な視点を提供している。そのかなりの部分をICHの紹介と 解説に費やしているが、どこをとっても考えさせられる。日本、USA、ECにおける薬物開発の差、本来はなるべく各国間の差 をなくしたいのだが、同じ薬物をとっても、各国間で、用量、効果、副作用の頻度を異にしているものが多い。したがって、 『各国で実施された信頼性の高い(薬の開発に関連した)試験を他の国でも受け入れることによって、限られた医療資源の 無駄を少なくし、かつ、開発に要する時間をなるべく短縮することにより、世界の人々がひろく優れた医療(医薬)の恩恵を できるだけ早く享受できるようにする』ことを目的とはしていても、その内容は単純ではない。著者は個々に例を引きながら、 これらの問題を分かりやすく解説している。

本間氏らの『医薬品の使用成績調査の実施方法に関する研究班』の報告は、3年以上にわたる共同研究の成果である。著者 らは、使用成績調査(市販後調査)にあたっては、その目的をわきまえ、科学的な調査[疑問点(問題点)の検出→仮設の設定 →仮設の検証→新たな検出の繰り返し、という手順]を定着させる必要があることを述べている。特殊な患者群である小児、 高齢者、腎あるいは肝機能障害を有する患者についての調査の方針を示している点はことに注目される。

山本氏の『臨床試験における薬の有用性の概念とその評価』では、わが国独特の『有用性』について明快なコメントが加えられ ている。諸外国では有効性と安全性のみを評価すればよいとされている。しかし、臨床試験の最終目的は被験薬のrisk/benefit 比を判定することにあり、この比はほぼ、『有用性』に相当する。また、Quality of Life(QOL)を臨床評価に用いることについての 意見も述べられている。QOLには、患者の主観面・社会経済的側面が大きく反映し、またそれが今後の医療の中心テーマともなる。 医師と患者とでQOLについての評価が違っており、医師はQOLを悪い方向に評価する傾向があることが指摘されている*。その 評価の科学的基礎づけが重要であろう。

尾島氏らの『ビデオ画像による改善度判定の実験計画と解析』は、新しい効果判定法の基礎的研究としての貴重である。この なかで述べられている『繰返し』の有効性、判定医師団の構成とその判定成績のバラツキ、FGIRとビデオ判定値との相関(低か った!)など、一見常識的とも考えられてきた事柄の重大な盲点を突いた報告である。今後の研究の発展が期待される。(M. K.)

*Pearlman, R., et al.: J. Gerontol., 43: M25, 1988.

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