臨床評価 1990; 18(3): 549より
「臨床評価」が生れた頃は、ベトナム戦争がたけなわの頃であった。発刊3年目の1975年にサイゴンが陥落し、ベトナム戦争は 終った。
私は最近2度ほどハノイを訪れたが、フランス植民地時代の蓄積を喰いつないでいるような感じを受けた。ホテル、道路、鉄道、 港湾などは、過去40年間ほとんど新しい投資がされていないようであった。昨年、日本の国民所得が世界第2位になったことが 報ぜられた。われわれの懐具合は世界第2の金持ちになっているとはとても思えないが、電気、水道、ガス、交通、通信等々、 社会のインフラをベトナムと比較すれば、多少納得が行く。昨年から東側共産圏の大きな変動があったあと、昨年8月2日以来、 やるか、やらないか、多少やらないだろうと、外務省の高官も話していた湾岸戦争が遂に1991年1月16日から始まった。1月16 日から、TVは24時間戦争のニュースを流し、あたかも第三次世界戦争が始まったかのごとき感じを受ける。日本は戦場から遠く、 人を戦場に出してもいないが、それでもあの50年前の12月8日を思い出させられている。
この18年間に、薬物治療も、その評価の体勢も、副作用対策も大きな変革(進歩といい換えてもよいだろう)を遂げた。大きな 薬害事件が終ってすでに何年も経った。今後、過去のような薬害が再び起る兆しはない。薬効評価の方法も、比較試験が 常識になった。数年前にGLPのガイドラインが決まり、昨年10月には、GCPのガイドラインが発表された。アメリカと日本とは この面で肩をならべ、ECがこれに追いつこうとしている。
この号には、比較試験に関する統計的諸問題について、広津教授のくわしい解説がある。背景因子、多剤あるいは多用量の 比較、経時的データの処理など、日常遭遇する重要な問題を取扱い、大変有用な解説である。清水直容教授らの市販後調査 (PMS)の綜説は、アメリカでも日本でもこれから整備すべき重要な問題を述べている。医療経済が社会化して行くにつれて、 コンピュータの導入とともにPMSの体制は整備され、医療の質の向上に役立って行くであろう。
原著は、抗不安薬と、ジスキネジアに対するルシドリールの二重盲検の2編で、少ない。しかし、GCPやFDA承認の条件、あるいは 薬剤の副作用の国際報告制度(WHOでは1964年から現在まで続けられているが、内容は部外秘である。)についてのCIOMS (Council for International Organizations of Medical Sciences)の論述など、豊富かつ多彩な資料が掲載されている。(中島 章)