臨床評価 1990; 18(2): 399より
本誌も18巻の第2号を数えるに至った。この号は、薬物としては2種類についての論文が掲載されているにすぎないが、「臨床 評価」というタイトルの本誌にとっては重要な総説と資料がそれぞれ一編ずつ掲載されている。市販前の臨床試験は、医薬品の 評価の一部分にすぎず、真の評価は(end pointの設定の如何にもよるが)市販後何年も経って、はじめて明らかにされることが 多い(最近も市販後比較的短時間で市販が中止されたり、効能の記載が変更になった例がある)。しかし市販前の臨床試験実施 基準(GCP)が施行されることになった意義が減ずるものではない。GCPは研究者およびスポンサーが遵守すべき最低の約束事 だからである。
本号の総説は、本誌17巻2号に、その(1)として掲載された論文の続編ということになるが、GCP案が公表された後、各方面の 意見を取り入れて、確定条文となった間の経緯を知ることができる点、意味深いものである。例えば治験審査についての中で、 「審議」と「確認」がどのように使いわけられており、両者の持つ意味の重要性がいかに異なるかなど、詳細な記述が行われて いる。われわれは、とかく成文化された約束事を重んじ勝ちであるが、表面的、形式的な書類の整備で満足するならばいざ知らず、 このような基準が、外的要望から(研究者の間での自発的なものでなく)実施された今日、その案と確定条文との違いを明らかにし 記述しておくことは、今後必ず起こると予想される実施現場からの真剣な疑問に答える際にも重要な示唆をあたえるものと信じる。
この点、本号のもう一つの論文(資料)であるECのGCPには、ヨーロッパ製薬企業協会(EFPIA)からの要望が最終的にどのように とり入れられ、あるいは、反映されなかったが付記されていて参考になる。なおECのGCPではモニターとその役割りを明確にしている こと、ランダム化とブライドおよびキーコードの保管者の記載があること、またこのGCPが第4相にも適用されることなど、いくつかの 点で今後日本のGCP運用にあたって参考になることがあり、ぜひ眼を通していただきたい。
本誌のこれまでの全18巻の総説資料のタイトルだけでも通読していただければわかるが、臨床試験のあり方について、本誌は 常に先駆的な取り組みをしてきたと自負している。1990年10月1日より施行というGCP実施にあたって、私どもの主張の多くが妥当性 あるものとして取り入れられていることは喜ばしい。願わくば、日本のGCPが形式的に完備されたものだけに終らず、臨床評価の真の 精神が、研究者、スポンサーに理解され、また、将来の国民のための知的、物点財産とも言える薬の開発がスムーズに受け入れられる 土壌が育成されるよう願っている。(N. S.)