臨床評価 1990; 18(1): 241より
臨床評価18巻1号では、巻頭に、「多重性」の問題についての座談会記録が取りあげられた。この座談会では臨床の側から、 長年にわたって疑問視されていたことが出されて、統計の側と話し合われた。ここで、いろいろな形の多重性の問題の整理 が試みられた。ところで実はこの座談会は7年前の厚生省研究班における研究の一環として行われたものである。ここで問題 とされたことは、翌1984年、日本で開かれた第12回International Biometric Conferenceにおいて世界的にも関心をもたれて いることも確認され、これが起点となってその後さらに統計的検討がすすめられている。未発表のまま置かれていたこの記録は、 いまは公表されても史料としての価値が大部分である。史料と現在の到達点とのあいだを座談会記録に前文として今回つけ 加えた「座談会の今日的意義」で解説している。
この前文の初めにある次の一節『「臨床試験とは、既存の統計的方法の適用分野ではなくて、固有の論理構造把握に伴う、 統計的方法自体の創生を必要とする分野である。」という臨床側の期待が読み取れる。』という文章は、臨床側にとって会心の 指摘である。将来の臨床評価統計に、独自の画期的発展も期待できる。このような臨床側の期待は、統計学に対してだけではなく、 広く臨床試験をとりまくすべての分野にも向けられている。
資料として「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(厚生省薬務局長通知 平成元年10月2日)」と、その基準(GCP)の「マニュ アル」が併載されている。平成2年10月1日から実施されるこの基準、通称GCPは、医薬品の製造(輸入)承認申請等の際に、 提出すべき資料の収集のため行われる臨床試験が倫理的に、また科学的に適正に実施されるように、関係する医師、薬剤師 、医療機関、製薬企業等が守るべきことが細かくきめられている。手続き的なことが多いためもあり、多忙な臨床医が関心を 持ち、基準を守るかどうかが心配されている。形式的に流れることなく、この基準が実質的かつ発展的に支持されるよう われわれは努めなければなるまい。
資料の2はPMS(Post-marketing Surveillance、市販後調査)に関する本間光夫研究班の昭和62、63、平成元年度研究報告書 を3年分まとめて掲載してある。日本のPMSは(先進各国に比べて)、期待しただけの情報が得られていないという認識のもとに 詳細に改善策を検討している。PMSのために製薬企業は相当な費用を使っているときく。最終的にそれは薬の値段となって 国民が払う。費用と効率について、行政と企業に押しつけず国民全体で考えてほしい問題である。(佐藤 倚男)