編集後記


臨床評価 1989; 17(3, 4): 529より

1989年は医薬品の臨床評価に関連した重要な諸問題がとくに多く提起された年と考えられよう。1979年から始められた 厚生省の新薬臨床評価ガイドラインの作製は、各臨床領域で第一線に活躍する専門家からなる研究班の協力を得て 順調に進み、各種薬効群別に標準的な方法として定着しつつあるが、本年には降圧薬領域で早くも旧ガイドラインの見直し 第一号が完成された。科学の進歩に対応した迅速な措置といえよう。また、長期間にわたる案としての検討を経て、GCP がようやく採用され、来る1990年秋から適用が必須とされることも決まった。さらに、薬効評価にあたり、評価に必要な データの収集と解析が偏りなく実施されねばならないが、この面に配慮した正しい統計手法を示すガイドラインが遠からず 案として示されることも仄聞されている。

これらの動きはいずれも、質の高い、信頼性のある薬効評価の必要性とそのあり方に対する臨床専門家と行政担当官の 迅速な理解と協力の賜である。

医薬品の臨床評価にあたり、その有用性の判定の上からも副作用の同定と評価は極めて重要な意味を持つにかかわらず、 従来は臨床試験の重点はややもすると“効能・効果”につながる有効性の検証に傾いていた感が否定できない面もみられた。

本号では巻頭に清水・藤田両博士による副作用研究の総説を掲載することができたことはまことに時機を得たことと考える。 薬剤の使用とそれに伴う副作用の発生の因果関係の調査は外国に比べて少なく、とくに疾患別登録による薬剤を含めた 大規模な追跡システムの確立ではかなり遅れを取っている。本論文では、副作用の同定のほかとくにPlaceboによる副作用が とり上げられている。6種の疾患、53治験につきPlacebo適用6,000例以上、治療薬適用8,000例以上を1機関で解析した結果、 Placebo投与により治験薬投与によるよりも副作用が多発したいくつかの症例群を認めたという知見や、例外はあるものの、 自覚症状的副作用の発現率が高い治験薬の対象疾患群ほど、Placeboによる副作用発現比率が大となることを認めた知見は、 評価に際して副作用として過小または過大な判定を行い、その薬品の有用性を実際よりも高くあるいは低く評価するおそれの あることを指摘している。さらに、近年ようやく注目されるようになった薬理疫学(薬剤疫学)の概念の紹介と今後の副作用情報 の収集のあり方にも触れられ、将来の副作用の検出と解析、評価を考える上で重要な論文と考える。

また、心筋症を伴ったリチウム急性中毒による死亡の一例報告も極めて貴重な報告と考えられ、本誌にこの種の論文がさらに 多く投稿されることを期待するものである。

本号は事情によりやむなく3・4号の合併号とした。(Y. O.)

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