編集後記


臨床評価 1989; 17(1): 167より

ヨーロッパ統合の動きは、医薬品開発の領域においても、ここへきてとみに活発になっている。本号にも最近公表された 「ヨーロッパ共同体(EC)における医薬品臨床試験実施のための共通原則」(1987年7月)と英国製薬工業協会(ABPI)の 「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(1988年4月)のGCPに関する2つのガイドラインの邦訳を収載することにした。

前者はEEC薬事委員会(CPMP)の有効性基準担当執行部門の報告書のかたちをとっており、EC加盟国内のGCPの統一化、 2つ以上の国にまたがる多施設臨床試験の実施や試験結果の加盟国間承認申請の円滑化に向けて、関連するさまざまな 法律、規制、行政行為のハーモナイゼーションを意図して制定された。ヨーロッパにおける各種ガイドラインのいわば総まとめ であり、12カ国それぞれの規制による要求事項の現状も一覧できるように整理されている。倫理委員会による事前審査、 倫理基準、同意取得など倫理面への配慮が伺われる内容であり、また、被験者に対する補償方策や責任の明確化について の記載もある。

後者のABPIガイドラインの場合は、原文はすでに1986年に発表されているが、その後改訂、更新の作業が行われ、今回のもの が決定版として公表された。ABPIのメンバーが利用できるように会社が自主的に作成したガイドラインであるだけに、試験の 注意事項や実施手順に関する記載は極めて詳細、かつ具体的である。この点とくに、研究者と試験実施施設の選定、同意書 の要点、モニタリングの方法、監査による信頼性の保証などについての明確な記載が注目されてしかるべきであろう。これを 前述のECガイドラインに照らすと、共通原則は当然のことながらクリアしているが、ABPIのそれは臨床試験の実施について かなり高水準の質的管理を目指しているように思われる。また両者に共通していることであるが、倫理面の規制については、 わが国の現状と比較しても、かなりよく受け入れられている印象を与える。

これでヨーロッパのGCPも、スカンジナビア諸国、フランス、西ドイツ、イギリスのABPI、それにECと、主なものが出そろった感が ある。これらが今後、「神聖な利己主義」(ドゴール)、「どうしようもないヨーロッパ人」(バルジーニ)のEC域内をどのように ハーモナイズして医薬品の開発と流通に役立つか、あるいはFDAや日本のGCPとどのようにハーモナイズしてEC域外の主要市場 に影響を及ぼすようになるか(大手製薬メーカーを抱える国にとってはむしろこの方が最大関心事)興味深いところであろう。 いずれにせよ、医薬品開発は国際化の時代であり、GCPへの対応が急務になったわが国にとっても、ECの最近の動きには 無関心でいられない。

本号には加藤和三先生の「抗不整脈薬の臨床評価の現状と問題点」と題する総説を掲載することができた。抗不整脈薬の 臨床評価についての豊富な経験をもとに問題点が整理されており、参考になることが多いと思われる。(三浦 貞則)

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