編集後記


臨床評価 1988; 16(4): 695より

近年日本における臨床試験の内容に徐々にではあるが変革がみられ、その水準も向上しつつあることは喜ばしいことであり、 種々の薬効別薬剤の臨床評価ガイドラインの整備や「新医薬品の臨床評価に関する一般指針(案)」の公表なども関与して いるものと思われる。

しかし個々の臨床試験の内容をみると欧米先進国の発表論文に比し、彼我の差を感じさせる試験も少なくないことは残念ながら 事実であり、今後改善されるべきいくつかの問題が指摘されよう。

その1つはインフォームド・コンセントの問題である。この問題は本誌に掲載されている光石氏の総説に詳しく述べられているが、 この総説は臨床試験に携わる医師、製薬会社関係者がともに熟読玩味すべきものである。インフォームド・コンセントなる国際 的な考え方が従来よりの日本の風土、医療慣習に必ずしもなじまず、タテマエとホンネを使い分けることの多い日本において、 臨床試験の意義の厳密な理解が欠けていると指摘されるのも当然である。従って今後臨床試験の実施はインフォームド・ コンセントを実験者−被験者関係において正しく理解しうる施設、または医師によってなされるべく努力されるべきであろう。 すなわち必要な被験者数を短期間に得る目的で、施設数と医師数を拡大することは試験の質を低下させるだけでなく、 臨床試験における人権の尊重という出発点の問題を見失う危険に繋がるといえよう。

臨床試験の締め括りは論文の発表であるが、日本におけるいくつかの論文についてはその作成、公表の過程においても 問題なしとしない。すなわち論文の作成過程において、得られた成績から導き出せないような希望的な結論が記述される場合が あり、共著者として名を連ねる医師が責任を持ち得ないような考察が述べられている論文も散見される。従って今後は すべての試験において試験担当医の一部の医師が共同して自ら責任を持ちうる論文を執筆し、第三者が査読するシステムを 採る雑誌に掲載することを原則とすべきであろう。

多くの医師と患者が関与し、多額の費用を掛けた日本の臨床試験成績が欧米における臨床試験成績と肩を並べて評価されうる日 が来ることを望んでいるのは筆者のみではないと信じる。(上田慶二)

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