編集後記


臨床評価 1988; 16(2): 407より

食べ物と、それと全く同じ大きさの他の物体とをならべて、『どちらが大きいか』と問うと、大抵は、『食べ物の方が大きい』と 答えるらしい。Yellowleesら(Brit. M. J. 296: 1689, 1988.)は、このことを実験している。ことに、神経性食欲不振症anorexia nervosa (AN)の患者では、年齢をマッチさせた正常対照群に比べて、食べ物の大きさを、さらにより大きく知覚していることを報告 している。ANの患者では、AN症候群がよくなっても、この傾向は変らないという。この事実から、AN患者の治療にあたっては、 大きな皿のほんの一部に小さなかたまりの食べ物をのせて食べさせたほうが、効果的である、という。このことは京都の料理 を連想させる。日本人は目で食べる、といわれる。見た目の美しさもそうであるが、食べ物と食器の大きさのバランスも問題 になる。小さな入れものに山盛りに盛ったのでは、ANの患者はとても、食べてくれそうにない。

食欲不振の患者に食餌療法を行うにあたっては、少量を頻回に与えるほうが有効なことは従来から経験的に知られてきた。 しかし、『食べ物の大きさ』の概念がANでは異なっている、ということは重要である。ANの患者は、症状が好転して標準体重 に近づいても、food size imageは変らないことが、指摘されている。現在、hungerの程度を定量的に知る方法はない。しかし、 hungerの程度とfood sizeの知覚との問題なども、今後、検討されるべきであろう。そしてこの問題は、糖尿病や心疾患など、 食餌療法の必要な疾患に対しても重要である。また、日常の、肥満などについても考慮される必要がある。

一方、drug designの上でも、実際の錠剤やカプセルの、色・形・大きさなどが、各疾患別の患者にどのようなdrug imageを 与えているのか、具体的にしらべてみることも重要であろう。多くのdrugがそのことを考慮してデザインされていることはたしか である。しかし、『AN患者におけるfood sizeの知覚は、栄養障害という二次的な器質障害によって起こるものではなく、患者に そなわったpsychological phenomenonである』ことが指摘されている。drug imageについても、そのような本来的なpsychological phenomenon がないとはいえない。またこのことは、治験薬やプラシボのデザインにも関係するかもしれない。

日常の診療にあたって、患者の器質的病態のみでなく、患者心理に対しても十分な配慮が必要なことはいうまでもない。さらに、 患者の、psychological phenomenonについても、意外に隠れた面があることを指摘した成績として、Yellowleesらの論文は面白かった。 (亀山 正邦)

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