編集後記


臨床評価 1986; 14(2): 463より

ボストンのハーバード大学医学部長Carola Eisenberg, M. D.によれば、最近高学年の医学生で将来医師になることに関して不安 を訴えて相談に来るものが激増しているという。彼らは、専門過程の研修業務については期待通りの内容に十分満足しているが、 問題は日常の診療が終ってから指導にあたっている教官の医師との話題に原因があるようである。

その内容は、研修生の医学への期待を裏切り、医師の特権の縮小、研究費の切り下げ、給与の減少や医療の質の低下などに 集中していて、医学生は希望を失ってしまうようである。このような風潮はボストンの第一線の医学研修病院でも同様で、また、 医学進学過程での教官の間でも同じような問題が語られているという。さらに医学情報誌が実地医家の間に、医師の権威の失墜 や既得権の喪失と自由の拘束の増大から、医業を中止する者が増えている現状を次々に取り上げることが、この風潮に輪をかけ て、将来医師を目指す者の間に異常な状態を作っているようである。Eisenbergは、医学研究の衰退のつけは予防・治療が可能な 疾患に悩む患者が支払うことを自覚し、今こそ医学者の教育・診療・研究の充実と向上をはかるのが医師に課せられた義務であ ると結んでいる。

医薬品の有効性・安全性を考えるにあたっても、医師はその義務を謙虚にうけとめ、周到な計画と綿密な注意のもとに試験を実施し、 結果を評価することをつねに心掛けるべきである。

本号の総説は、脳動脈硬化症の治療結果を評価するにあたっての基本的問題を取り上げた。とくに、最近その使用が少なくなる 傾向のあるプラセボを用いることの意義を再確認する上で貴重な内容を論じている。

また、公表されたことがきわめて少ない第T相試験の報告が、抗うつ薬quinupramineに関して掲載されたことは喜ばしい。残りの 6編は、いずれも多施設二重盲検比較試験による薬効の検討と評価に関するもので、科学論文は詳細なありのままのデータの 公表により、はじめて正当な客観的批判を受けられるものであるとの観点から、今後ともこのような詳報形式が継続されることを 期待する。

性染色体の操作による男女児の生み分けが、医学の倫理に新しい問題を提起している。一方では、動物愛護運動の高まりが、 前臨床試験のあり方にも影響を及ぼしつつある。治療・研究・教育とその仕事の内容は異なっても、医師にとってはますます困難な、 しかしやりがいのある発展を改めて考えるべき時期に来ているようにも思われる。(Y. O.)

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