臨床評価 1985; 13(3): 863より
最近多種類の医療用医薬品について、それぞれ臨床試験の実施に関するガイドラインが整備されつつある。これらは、原則 として臨床試験の目指すべき目標と試験計画が具備すべき最低の基準を示すものとして有用であり、日本における臨床試験 の水準を高めることに役立ちうることが期待される。しかし過去の臨床試験が辿った歴史的発展の足跡を顧みる時、また今後 いろいろの薬効を持つ新しいタイプの薬剤の出現が予想されることをも勘案すると、これらのガイドラインは常に時代が要求する 臨床評価法の基準に合致しうるよう、改訂の努力を重ねなければならないであろう。
これらの薬効別の薬剤の臨床試験ガイドラインが薬剤の薬効判定の方法について、一定の方式を示すことについては、それなりの 意義が認められる。しかし薬効判定の方法は、当然解析以前に選択されるべき評価の統計学的解析法と密接に関連する事項 であることを考慮すると、作用機序や薬効の出現様式の異なる多種類の薬剤すべてに一定の評価方法を当てはめることに問題 が生じうる可能性も考えられる。
本号の冒頭に掲載されている藤田氏、椿氏による総説は、臨床試験の評価に際する検定方法の影響を理論的に、また過去の 65件の試験成績に基づいて実地に論じた有益な総説であり、薬剤のもつ薬効のパターンの差により各々の解析法が薬効差を 見出す感度に差があることを示している。したがって試験方法、判定方法や統計解析法についても、薬剤のもつ特徴によりその 内容を選択しうる自由があることも必要であるかも知れない。
また臨床試験のガイドラインでは、試験計画の実施要綱を示すことができても、その質について規定することは困難である。近年 薬剤の二重盲検試験の施設数が増加する傾向が認められ、100施設をこえる試験の報告がしばしばみられる。これらのうちには、 試験プロトコール規定違反のため解析より除外される例が多数みられることは遺憾であり、試験計画の立案に慎重さが要求されよう。 元来二重盲検試験に対しては、試験の目的と方法に精通した専門家が当るべきであり、早期に試験を終了することを目的として 施設数のみを増すことは、試験の内容を低下させる危惧があることを認識し、臨床試験ガイドラインにおいてもその点への配慮 が具体的に記載されることが望まれる。(上田慶二)