編集後記


臨床評価 1984; 12(1): 305より

5-hydroxytryptamine(5-HTP)は長い間、精神科と生化学の分野で話題となっていた薬である。はじめてこれの臨床的有効性は 1959年ごろいわれたらしいが、1963年に有名なN. Klineがopen studyで50人にDL型を静注して、古典的うつ病20人のうち18人が24 時間のうちに著明によくなったが、Schizoaffective型ではそれほどきかなかったと報告し、恐らく二重盲検比較試験でないことを抑判 されてか、翌年やり直してほぼ否定的な報告をしてケリがついたことがある。

その8年後に日本で佐野が、5-HTPのL型ならばかなり有効だと発表した。148人の患者のうち、5週以上経過をみることのできた107 人で7割が改善し、1〜2週で完治するものも多いということであったから注目を浴びた。多くの人が有効側の報告を出したが、本誌に その二重盲検比較試験の結果が出ている。標準薬イミプラミンに比べて副作用は少ないが改善率は劣るという結論である。

DL型の結着は4年かかり、L型の結論は本誌への掲載年次でいうなら、公的には13年かかったことになる。大規模、精密な比較試験を やったため、経費と共に時間がかかった点もある。L-5-HTPはイミプラミンがある以上は、市場価値がほぼないことは明確になったが、 ではプラセボと比べても、無効なのかどうかはわからない。現存の抗うう薬の効果は弱くて、下手な計画でやるとプラセボと同じになり かねないと思われるので、これだけ厳密にやったからにはプラセボとはどうだろうという疑問がわく。生化学的に興味をもつ人は思い 切れないであろうが、以上が臨床から基礎への答えである。しかしもっと早く、臨床からのレスポンスを返せないものであろうか。一部 の大学では生化学的興味が先行して、抗うつ薬のニューフェイスとして講義までしてしまった。

日本の比較試験は企業側が計算をし、原稿まで書いてしまうところもあるときくにしても、実にこまかく、大規模になりつつある。これは いいことではあるが、今回のようなことがあると、臨床側としては、もっと早くできないものかと思うことしきりである。本当によい薬が出れば 、多くの症状を毎週のようにチェックするまでもなく完治してゆくので、小規模で、かんたんな評価基準でよいはすであるが、だたしバイアス が入らぬように厳密な盲検のみは必要である。

今回の教訓のもう1つは、臨床医のオープンスタディによる評価がまことに頼りないことである。薬の開発段階でいうなら第U相初期の 臨床評価が弱体であるということになるであろう。(佐藤倚男)

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