臨床評価 1983; 11(2): 523より
昨年末に明らかにされた医薬品評価にかかわる発表論文をめぐり、データの虚偽の作製が大きな問題となったことに端を発し、その 後基礎研究面でも同様な不祥事件が報道された。臨床試験の報告に際しては、多くの研究者の協力に待つことが多く、直接試験を 実施した多くの知見の観察者を信頼した上で、その成績が評価を受けることになるが、医薬品の疾病の予防や治療という問題にきわめて 懐疑的に挑戦する真摯な研究者の報告に際し、その個人の信頼性が問われるとは、まことに悲しむべきことであろう。
しかし、このような問題が、アメリカでも起こった。虚偽の報告を行ったDr. John R. Darseeは、多くの論文の基礎となった研究を実施した 所属機関であるHarvard大学からの指摘を受け、またEmory大学では医学部長名で、別個にすでに投稿受理された彼の論文2篇の取り消し を公表するとともに、Darsee自身もこれを認めることをNEJMに6月9日付で発表した。NEJMの編集審査委員会としては、この事件を機に、 今後投稿論文の共著者全員から、その内容の真実であることを保証するという一筆をとることも考慮しているという事態を招いている。
本号では、総説でコントローラーの役割をふくむ日本の臨床試験の諸問題点を取り上げ、まことに時機を得たものと考える。また、わが国で 開発された新しい抗精神病薬の第T相試験の詳細をまとめた報文も注目すべきものであろう。わが国もようやく新薬開発において輸入に 頼った時期から脱却する力をつけて来たと考えられ、この種の論文は世界でヒトに適用された最初の知見を提供することになるわけであり、 また第T相論文の公表が極めて少ない現状に鑑み、重要な報文である。今後ともこの種の投稿を期待するものである。なお、各科領域 にわたる6篇の二重盲検の成績も収められていて、それぞれ、各種医薬品の臨床評価に際しての対照薬の選定や、層別などの面で多くの 情報を提供するものと考えるものである。
スペースシャトルに女性飛行士が搭乗して話題となっていて、エレクトロニックスの進歩は歓迎するが、医学の面では、未だに各研究者 個人の偏りのない判断の訓練が望まれる時代のような気がする。(Y. O.)