編集後記


臨床評価 1983; 11(1): 249より

11巻1号の内容は総説を含め10論文が収載されている。第T相試験の方法については、実施に当たっていかにすべきか問題になる 点が少なくない現状から、詳細に述べられた安部論文はよい参考資料と思われる。二重盲検試験も内科、耳鼻科、皮膚科、精神科 と各領域の業績が寄せられているが、図表などデータを惜しみなく載せることが許されるのが、現在までの本誌の特色とされ、いずれも 詳細な報告となっている。

部厚な論文は一読するのに若干の努力を要するが、今日わが国における医薬品評価の問題が、その有効性、安全性に加えて信憑性 の存否まで問われる現状を考えると、これらに応える業績として執筆者の努力も評価したい。ある大企業の有能かつ多忙な部長が、部下 に報告書を提出させる際、要約を冒頭に記載させ、まずこれを一読することとし、そのまとめ方の如何で部下の能力を評価していると語っ ていた。論文の要約もこの意味で重要であり、私個人としては一部の外国誌のように冒頭に記載する方式もいかがかと思っている。

ある特定の疾患、あるいは治療に関して本誌関係でも多数の業績が集積されつつある。今後の臨床研究への展望のために、これらを まとめて再検討してみる必要性も生じてきた。その試みの1つが藤田・栗原論文であるが、多変量解析を中心にした新しい統計技法が 導入されている。研究室の若い人達の中には臨床データの性質につき、無批判に数量化して扱いたがる傾向があり、しばしばこれを 戒めているが、これは申請資料のために、徒らに感度のよい数量化技法のみが濫用されるのをおそれるだけのことで、今後の臨床研究 の進歩のためには多変量解析にも大いにご厄介になることと思われる。

エレクトロニクスの進歩は人間社会を急速に変化させてしまった。町工場のおやじさんから子供までパソコンをいじる時代になった。 世の中には略号と新造語が氾濫し、これらを知らねば時代遅れと思われる。医学論文も多くの情報を紹介することになると、どうしても 略字、略号を使用せざるを得なくなる。ただ自ら考案したものを研究会の参集者や、論文の読者に理解しやすくするための若干の努力と 親切心が欲しいと希うのは、頭が老化してゆく者のひがみであろうか、と思ってみる昨日、今日である。(H. I 生)

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