編集後記


臨床評価 1982; 10(3): 805より

今回は10巻3号で、臨床評価の発刊以来、いつの間にか10年となり、お蔭様で今日では薬に関する臨床治験の発表誌として権威と 信用のある雑誌となっている。他の多くのジャーナルの場合と同様、漸次頁数が増加しており、本誌も282頁の大部のものとなった。

薬効の客観的評価に当って推計学は今日では絶対に必要な手段の1つとなっている。したがって臨床治験の情報を十分に利用する ために、この分野に直ちに応用できるより良い推計学的方法の開発が望まれている。本号の総説には、藤田・椿両氏により、一般に 広く用いられている2×2分割表の”より深い”応用法について述べられている。臨床治験は8報掲載した。

本号の編集がほぼ終了し、編集後記を執筆する直前に、日本ケミファの偽論文事件が報道された。連日新聞紙上を騒がせているが、 全く想像を絶する不祥事である。医療や薬に対する国民の信頼を回復し、医の倫理を確立するためにも、今後絶対に起こってはならない できごとである。この事件の背景には、新聞などで報道されているように、研究者(医師)と業者の癒着、製薬企業の儲け主義、医薬行政 の貧困さなど多くの要因があろう。製薬メーカーも企業である以上、”正当な”利潤をあげることをもちろん否定するものではないが、しかし 一方では、薬の”公共性”を忘れてはならないものと思われる。

製薬業界の競争の激烈化、新薬開発に要する年月と出費の増大を考える時、単に企業の”良心”の問題と放任できない複雑な要因を 含んでおり、事件の再発の防止には、そのような不正が行いえないような”環境”作りが必要であると思われる。具体的には臨床治験に おけるコントローラーのあるべき姿の確立と治験に携わる医師に対する方法論についての具体的な教育とである。今日、名義借し的 コントローラー(実際上、すべての”実務”がメーカーサイドで行われている)や、医学知識のないコントローラー(治験計画の公平性、 対照薬の妥当性、脱落・除外などの妥当性、論文の公平性などについての専門的な判断ができない)の存在が目立ち過ぎるように 思われる。われわれ有志によるコントローラー委員会も、多くの経験の上に一歩一歩、より良く、信頼性のより高い臨床治験方法の確立 に努力しているが、この際、禍を転じて福となすよう、心ある多くの人々の、臨床治験に対するより一層の関心と協力とを期待するものである。 (内藤周幸)

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