臨床評価 1982; 10(2): 523より
本号には原著10編が収載されているが、その中の1編を除いて他はすべて、二重盲検法による比較試験の治験成績かそれと関係の 深い論文である。本誌掲載の治験に限らず、現在、第U相、第V相の治験の大多数が二重盲検法を用いた比較試験であることは周知 のことで、こうしてみると、二重盲検法は臨床治験に不可欠の方法としてすでに広く定着したといえよう。本誌は発刊以来十年を経、その 歩みはわが国における二重盲検試験の歴史そのものと見てよいが、本法普及の現状からすれば、”路を拓く者”としての役目は 果されたといって良いであろう。
しかしその一方で、二重盲検法に対する否定論や拒否反応が、臨床医やジャーナリズムの間に今なお根強く存在することもまた事実 である。そういう反対論のひとつは、ある種の疾病や患者に対しては本法は治験の方法としてなじまないとするもので、悪性腫瘍などは その代表であろう。反対論の中にはかなり激越なものや、的外れなものもあるが、時には反論するのが難かしいと感じることもある。 また、二重盲検法による治験の結果は当然のことながら推計学的に処理されるが−というよりも、推計学的処理のためにこそ本法が 用いられるのだが−、慣行の有意性検定に対しては統計学の立場からの疑問もある。
これらは二重盲検法の本質にかかわる問題点であるが、本法を実施する臨床の現場でしばしば遭遇する技術的な問題も少なくない。 いわゆるinformed consentはその最たるものであるが、脱落、除外例の選別やその処理法をめぐっての担当医と、コントローラーの 間の意見の確執などは治験のたびに繰り返されることである。こういう一見瑣末なことでも、理論的裏づけなしには説得しにくいし、 少しでも疑点が残ると、二重盲検法に対する不信感へと増幅しかねない。
二重盲検法が治験の正統的な方法としてさらに広く認知されるには、方法論の基本に関してはもちろんのこと、実施の技術にまつわる 細かな問題についても、統一的な見解とその理論的な裏づけを与えるように努めなければなるまい。こういう問題を多面的に、しかも 深く掘り下げて行くことが、今後の本誌に課せられた使命ではなかろうか。拓かれた路は次に固められなければならない。
今年の夏は気まぐれで、8月も終りに近い今頃になって厳しい暑さが続いている。しかし本号が上梓される頃には、少しは秋の涼気が 感じられることであろう。(K. Y.)